左足を信じろ

トラックのスタートラインに立つ。
内田氏は私の直後、北村は私の右前方45度の位置にスタンバイした。私はトラックの先に見える半円形の空間の上方に視線を定め、胸を張って歩きはじめた。

1回目、5メートル。

2回目、8メートル。

なかなか調子が上がってこなかった。例によって右足の出があまりよくない。

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2回目の歩行のあとトラックに座りこんで休憩を取っていると、ウォレス氏が近づいてきた。もちろん彼には、私の歩行の弱点が手に取るようにわかるのだろう。

「利き足はどっち?」

そう言われた。

「利き足というのはとくにないかな。ただ、左足に体重をかけるのが苦手なせいで右足が出しづらいんだ」

「左足に乗せる体重をコントロールできない?」

「左の股関節を脱臼しているせいか、うまく体重を乗せられない」

「痛みは?」

私はすぐに答えた。
「痛みはないよ。日常生活には支障がないし、そもそも脱臼していることだって、このプロジェクトでMRIを撮るまで知らなかった」

私の話を聞いたウォレス氏は、三本目の歩行に臨むべくスタートラインに立ち上がった私のもとに歩み寄り、力強くこう言った。

「トラスト ユア レフト レッグ」

左足を信じろ、か……。