ATMも「昭和の遺物」になる
思い出すのは、今年7月にようやく移行が完了した、メガバンクの一角みずほ銀行(みずほフィナンシャルグループ)のシステム統合「MINORI」プロジェクトだ。
旧富士・第一勧銀・日本興業銀行のシステム統合に関係したIT企業は約1000社、投入したITエンジニアは35万人月、要した費用は総額4600億円超とされる(みずほは2019年3月期決算で勘定系システムに4600億円の減損を計上した)。
2002年4月の大規模なシステムトラブルから17年、巨額の予算を投入して20世紀型のオンライン・バッチ処理システムを統合したのは、まさに「執念」と言っていい。しかしこの間にも様々な技術革新が起こり、5G実用化を目前に控えたいま、クラウド/エッジ・コンピューティング、サーバーレス、マイクロサービスが主流になりつつある。
IT業界の常識でいえば「10年間の運用コストは開発費の3倍」なので、みずほ銀行は「MINORI」のためにこれから莫大な負債を払い続けることになる。しかしこれまでのATMの運用がそうであるように、システム運用費を利用者に転嫁する「総括算定方式」が許されるなら、最終的に負担するのは口座保有者であり一般の顧客だ。
1960年代の後半、金融の世界を主導したのは三井銀行と富士銀行だった。オンラインシステムは資金決済の手続きを変え、押印をなくし窓口係員によるプライバシー漏洩リスクを軽減した。それによって銀行のイメージは、お高くとまった「金貸業」から、庶民向けの「サービス業」へ転換した。当時、銀行が取り組んだのは「事務機械化」「電算化」だが、発想は現在求められているDXと同様だ。
いずれ、日本も韓国と同様、入出金や振込みはネット、銀行に行くのはローンや遺産相続の相談のとき———という生活が当たり前になる。リアル通貨の流通量が激減するからだ。
そしてその向こうには、法定通貨のデジタル化という「解」が見えてくる。ATMも「昭和の遺物」と割り切って、デジタル通貨に舵を切らない限り、日本のメガバンクは世界の潮流に取り残されるのではないか。
今回のATM共同化は「ガラパゴスの幸福」か、それとも大局的なDX構想の一角となるか。今後の展開に注目しよう。