「怒りの炎」だったのかもしれない

一つ気になっていることがある。サクヤヒメはなぜ、危険を冒してまで潔白の証明に踏み切ったのだろう。神々の暮らしを垣間見たことのない人間の妄想で恐縮だが、ニニギに拒絶されたイワナガヒメが実家に戻っているのだから、いざとなれば帰る場所はある。無実(何の罪かよくわからないが)を証明しなければ、天の神の血を引く子を宿しているとウソをついた(ついてないが)罪により切り捨て御免、などという事態になったりするのだろうか? 親権をめぐって天と地を巻き込んだ抗争に発展しそうだったとか? それとも、ニニギを愛していたから信じてほしかった?

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私は、彼女は認めてもらうとか、信じてもらうためではなく、「自分が怒りを感じている」ことをただ突きつけたかったのではないかと思う。お前は私を軽んじた。私はそのことを決して許さない。この体を駆けめぐり、逆立ち上ってくるような感情が「ほんとうにそう」であると今ここで表明してみせる。

私はほんとうに清廉潔白か? ほんとうにそう。

私はほんとうに怒りを感じているか? ほんとうにそう。

私はほんとうに自分の魂を守りたいか? ほんとうにそう。

私はほんとうに「良い」と思ったものを良いと、「悪い」と思ったものを悪いと、許したくないものを許さないと、守りたいものを守ると思っているか? ほんとうにそう。

私は、ほんとうに、そうか? ――そう。ほんとうに、そう。

ナメられたままでこの先も関係を続けていくことは不可能だ。彼女は尊厳を守るために火を放ったのかもしれない。冒頭で「ニニギ、止めろよ」と書いたが、その実、サクヤヒメがほんとうに「そう」することを心に決めていたら、彼女の行動をコントロールできる人は誰もいない。彼女自身の表明の方法を決定できるのは、この世で彼女一人だけなのだから。

※本記事は『日本のヤバい女の子 静かなる抵抗』の一部を抜粋し、著者の許可のもと再構成したものです。