若者による若者のためのビジネス
では、プロダクトの見た目を「SNS映え」に寄せさえすれば若者を虜にできるのかと言うと、決してそうではない。若者の気持ちを真に理解し、その心を掴むことができるのは、やはり若者なのだ。そして、韓国の若者向けビジネスの多くは、「若者による若者のためのビジネス」であることが多い。
代表的なのが、「スタイルナンダ」というファッションECサイトである。CEOはキム・ソヒ氏という34歳の女性だ。2005年に当時弱冠22歳だったソヒ氏が立ち上げたこのブランドは、2018年に世界最大の化粧品会社・ロレアルに売却された。その金額は日本円にしておよそ400億円と言われている。
スタイルナンダの成功は、「若者が憧れるものを、若者センスで作り上げ、若者に向けて発信していく」というシンプルな手法を突き通したことにある。スタイルナンダほどの規模感でなくとも、若者に人気のある韓国のブランドは「作り手である若者の感性」を最大限に尊重したブランディング・商品開発が行われていることがほとんどだ。
それを実現できる一つの理由として、韓国には未だ多くの町工場が残っていることが挙げられるだろう。印刷物にしろ縫製品にしろ、日本と比べて小ロット・低価格で生産を行うことができ、自分の感性に基づいた製品をとりあえず作ってみること、それをもとにビジネスに踏み出すことのハードルが低いのだ。
筆者の周囲にも、オリジナルの文房具やぬいぐるみなどを工場で生産したことのある韓国人の知人が何人もいる。初めは趣味からスタートし、それがいつの間にかビジネスになっていたというパターンも多い。最近では、古くなり価値の下がった建物を活用し、20・30代の若者が店を開くケースも増えている。
また、ミレニアル世代以下の韓国人は、幼少期から日本のアニメやマンガ・ドラマなどをほぼリアルタイムに視聴していることから、同世代の日本人と趣味趣向が近しい傾向が見受けられる。過去はともかく、今の日本の若者にとって、韓国の若者の生み出したビジネスとそこから生まれたカルチャーは、かなり受け入れやすい形状をしているのだ。