2019.10.15

市場半減の出版不況でも、紀伊國屋書店は「11期連続黒字」のワケ

カギは37店舗もの海外展開にあった
米津 香保里 プロフィール

日本人は紀伊國屋書店の成功を知らない

この店に象徴されるように、紀伊國屋書店の海外店はいまアツイ。しかし、そのことを知らない日本人は意外に多い。

実は紀伊國屋書店は、世界で唯一と言ってもいいくらいのスケールで海外展開を成功させている書店チェーンだ。現在、アメリカ、シンガポール、インドネシア、マレーシア、タイ、カンボジア、ミャンマー、オーストラリア、台湾、アラブ首長国連邦と10カ国に進出し、合計で37店舗を経営。さまざまな国籍の総勢1000名を超える従業員が、日本から赴任した社員とともに海外の紀伊國屋書店で働いている。ちなみに、来年はアブダビへの出店も控えている。

日本の書店チェーンでこれだけの展開を海外で行なっているところは他にはない。旭屋書店が香港に1店、ジュンク堂書店が台湾に1店。他国に目を転じても、1990年代以降アメリカのボーダーズが自国の外に打って出て、一時は店舗網を拡大したが、その後撤退(2011年に経営破綻)。現在、台湾の誠品書店が国外で積極的に展開しているが、エリアは中国、香港、日本に限られている。海外の有力書店ですら苦戦するほど難易度の高い他国での書店経営で、紀伊國屋書店は成功しているのだ。

 

では、なぜ、紀伊國屋書店はグローバルに店舗網を拡大できているのだろうか? もしかしたら、無理な出店に内実は青息吐息、本当は撤退目前なのでは? そんな疑問すら湧いてくる。だが、紀伊國屋書店は昨期から海外店の業績数字を組み込んだ連結決算へと移行している。もし内実が青息吐息なら、わざわざ連結決算にはしないだろう。どうやら海外展開が順調に推移していることは事実のようなのである。

海外店全体で200億円

事情を聞こうと取材を申し込んだ筆者に、取締役副社長の森啓次郎さん、同じく取締役副社長の藤則幸男さん、パシフィック・エイシアン地区総支配人の川上幸弘さんが答えてくれた。

「私たちが海外で店舗網を拡大できているのは、品揃えとか、店のデザインとか、サービスの品質などの基本はもちろん重要ですが、それらに加えてよい家主との出会いが特に重要となります」(森副社長)

「紀伊國屋書店が初めて海外に出店したのは、1969年のサンフランシスコ店。創業者・田辺茂一の決断でした。開店パーティーでは作家の柴田錬三郎氏や安岡章太郎氏、丸谷才一氏などが日本からサンフランシスコまでお出でになるなど、大変盛大だったと聞いています。
その後、ロスアンゼルスやニューヨークに出店、1983年にはシンガポールに出店。現在、37店ある海外店全体で約200億円を売り上げるところまで成長しました。これは紀伊國屋書店の総売上の約1/6にあたります」

こう聞くと、紀伊國屋書店の海外展開は順調に拡大してきたように見えるが、実際はそうではない。川上氏によると、「商習慣の違い、従業員の引き抜き、為替の変動、言葉の壁、国ごとに違う文化や法律など、苦労はかぎりなくあります」とのこと。

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