2019.11.21

消費税10%でも積立金は大赤字!公的年金は破綻するのか

「年金は破綻する」を検証する(後篇)
危機的な状況を迎えている年金制度。年金「最終警告」の著者、島澤諭氏が政府のデータから日本の経済状況、深刻化する財政危機の真相を読み解いていく。前篇に続き、年金は破綻するのかを検証する。

所得代替率の下限は50%

老後の生活を考える上でも、年金額がどこまで下がっていくのか分からなければ、不安です。やはり、貰える年金額にも見通しが必要です。

そこで、新規裁定者の「標準的な年金額」の所得代替率を50%が下限と決めました。標準的な年金額とは、夫が平均賃金で40年間働いたサラリーマン、妻が40年間専業主婦である世帯が貰える年金のことです。モデル年金とも言います。ただし、こうした条件が当てはまる世帯は少ないと批判もあります。

実際のデータで見ても、平均的な年金額はモデル年金を下回っています。所得代替率50%は、政治的にも、絶対に下回ってはいけない一線です。「100年安心プラン」が策定された2004年時点では、所得代替率は59%でした。そして、その水準から自動的に下がり、2023年に50・2%となったところで、マクロ経済スライドが終了することにされました。

その後は、所得代替率50%が維持され、2100年までの年金財政の安心が保証されました。年金財政の安定を確保するためのマクロ経済スライドはほとんど適用されなかったのです。ですから、高齢者の年金は守られ、年金財政の安定性は損なわれてしまいました。その結果、マクロ経済スライドによる年金削減期間はドンドン先送りされ、2043年となっています。

積立金の計画的取り消し

「100年安心プラン」のもう一つの特徴は、年金積立金の計画的な取り崩しです。年金制度は、20歳で加入したら、65年近くお世話になる、とても時間軸の長い制度です。ですから、年金制度は長期間の安定性が求められます。「100年安心プラン」では、この「長期間の安定性」の考え方を修正しました。

それまでは、財政再計算の時に、無限先の将来(※1) ! までの年金財政の安定を考える永久均衡方式が採用されていました。永久均衡方式のもとでは、どんなことが起きるか皆目見当もつかない無限先まで、年金制度を維持しなければならないわけです。国は、将来、どんなアクシデントが発生しようとも必ず年金を支払う無限責任を負っていたのです。

となれば、なるべく多く貯金(積立金)を持っておきたくなります。という訳で、かなりの長期にわたり、給付額の数年分の積立金を保有する目標がたてられていました。でも、保険料を上げたり、年金を削減したりするのに、貯金(積立金)がたくさんあるのはおかしいという話になりました。貯金はまさかのためのものだし、いまがそのまさかの時ではないかと。

そこで、「100年安心プラン」では、「国が、永久均衡方式のように、無限先まで責任を持つのはやめます。かわりに財政検証の時点から10 0 年先までは年金財政に責任を持つことにします!」と宣言しました。こうして国は、年金財政に関しては、100年先の有限期間に対して責任を持てばよいという有限均衡方式に切り替えたのです。無限先の将来よりは、まだ100年先の将来の方が、見通しは立てやすいですし、責任も持てるかもしれません。

安倍晋三首相(photo by Getty Images)

100年というのは、財政検証の時に既に生まれている世代の多くが年金の受給を終える、つまり死ぬまでの期間です。要するに、少なくともこの財政検証の時に既に生まれている世代のなかで一番若い世代が死ぬまでの間は、公的年金制度(繰り返しになりますが、みなさんが貰う年金額ではありません!)は、持続しているように努力しますという訳です。

具体的には、向こう100年にわたって年金積立金という年金財政の貯金を計画的に取り崩し、給付額を下支えするのです。ただ、全く貯金を持たないのも、何か不測の緊急事態が起きたら不安です。ですから、100年経ったあとは、公的年金財政は、1年分の年金給付額に相当する程度の貯金を持つだけにしました。

このように、有限均衡方式における積立金を取り崩して年金財政に補塡する仕組みは、年金財政が保険料収入に依存する度合いを引き下げる狙いを持っていたといえます。

(※1)永久均衡方式とは、現時点から無限の将来までの年金給付総額と保険料総額とが均衡するように収支計画を考える方式のことです。

有限均衡方式の問題点

「100年安心プラン」で採用された有限均衡方式は、結局のところ、財政検証のたびに、年金財政の収支見通し、そして財政均衡期間の終了年度を5年先延ばしするというものです。

したがって、5年毎に終了年度が遠くなりますから、前回の財政検証で終了年度とされた時点では、新しい財政検証では、保有しておくべき積立金が事後的に多くならざるを得ません。なぜなら、最終年度以降は積立金は年金支給額の1年分を保有すればよいだけですが、最終年度の5年前となれば、1年分以上の積立金がなければならないからです。そうしなければ、終了年度に達する前に積立金が1年分の準備金を下回ってしまいます。

有限均衡方式では、財政検証のたびに、積立金を積み増すため、マクロ経済スライドの終了期間を先延ばしし、将来の年金額を更に抑制することになるのです。当然、現在マクロ経済スライド終了時点で約51%確保できるとされている所得代替率は、財政検証のたびに引き下げられていく可能性が高くなってしまいます。

有限均衡方式では、仮に財政検証の見通しの通りに将来の経済想定などが推移したとしても、財政検証のたびにマクロ経済スライドの適用期間が延長され、給付水準の低下が不可避です。つまり、有限均衡方式は、所得代替率に関して、常に楽観的な見通しが示されてしまうのです。