不動産価値は800億円から1000億円
つまり乾汽船の買収はメルコHDがやってきた買収というよりは、寛之氏を中心のマキスが進めてきた買収だと見て取ることができるのではないだろうか。寛之自身も周囲に対して「僕は事業家というよりは、ファンドマネージャーなのだ」と語っていたという。
しかし乾汽船はメルコHDの本業と関係がないばかりか、長引く海運業界の構造不況に苦しみ、前述のアルファレオHDの主張通り、十分な配当も出せない状況だ。
「確かに業績は冴えませんが、乾汽船は旧イヌイ倉庫が持っていた不動産がある。不動産価値は800億円から1000億円、その含み資産だけでも300億円から400億円あるといわれている」(証券市場関係者)
それだけではない。今話題のIR開発をめぐって横浜市から山下ふ頭倉庫の立ち退き移転を求められ、19年3月期第一四半期決算で15億3300万円の特別利益を計上している。まだある。
「乾汽船が4つの不動産を保有する勝どきは近所の晴海に東京オリンピックの選手村ができることになっており、周辺整備が進んでいる。オリンピック以降の優良不動産として大きな注目を集めている」(不動産業界関係者)
つまり乾汽船というのは、業績こそ悪いが、巨額の含み資産を持つ“宝の山”だということだ。
含み資産を持つ業績不振の企業をターゲットにするのは村上ファンドの十八番。さらに海運関連では「村上ファンド出身者」が設立した投資ファンドのエフィッシモ・キャピタル・マネージメント(シンガポール)は川崎汽船の株を買い集めて34.22%まで株を取得、失敗はしたが乾汽船同様、社長の解任まで仕掛けている。
「寛之さんもシンガポールベースで投資事業を行ってきており、指南役には村上ファンドやエフィッシモの関係者がいるのではないか」(事情通)といったうがった見方もあるが、その実態は明らかになっていない。
また不動産再生ファンドとして一世を風靡した金子修率いるダヴィンチ・アドバイザーズ(現DAインベストメント)が乾汽船に対して「株買収をしながら、共同開発を持ち掛けた」(事情通)といわれており、そうした関連性も疑われるが、その点も明らかにはなっていない。
では、なぜ純投資からアクティビストに大きく舵を切ったのか。きっかけは経営の実権交代が大きく影響しているのではないだろうか。
寛之氏は14年にメルコHDの代表取締役社長に就任。このときメルコHD内に金融子会社、メルコフィナンシャルホールディングスを設立。シンガポールの投資ファンド組成した金融商品を販売することになっているが、アクティビストとして活動しているわけではなかった。
寛之氏の父で、メルコHDの創業者、牧誠氏は早稲田大学大学院理工学研究科応用物理学を修了後、秋葉原のオーディオメーカー、ジムテックに入社。その後名古屋でアンプメーカーのメルコを創業。デジタル機器事業で頭角を現し急成長した業界の寵児だ。
業界団体のデジタルライフ推進協会の代表理事も務め、人望も厚い人物。しかし2018年4月3日、69歳の若さでこの世を去った。
「父親は亡くなる半年ぐらい前に倒れたのですが、それを機に寛之さんは家業を引き継ぐことを決意をしたようです」(事情通)
そのころから寛之はこれまでの純投資というスタンスからアクティビストへと変わっていく。アルファレオHDは2018年6月の乾汽船の総会で自社株買いの株主提案を行い、存在感をアピールした。
今年6月の総会については会社側に対して敵対的な姿勢を明確に示し、決議取り消しの訴えを行った。そして来る11月4日に臨時株主総会を要請、社長解任などを求めている。
一方で、アルファレオHDの反論書が10月29日に公開されて言い分が明らかになった。要旨は、「目的は純投資であり、経営支配を目的にしていない。企業価値の向上につき信頼できる経営者に経営をお願いしたいだけです」(アルファレオHD)
果たして天王山の11月4日にはどのような結果になるのか。成り行きが注目される。