数学者、渾身の訴え! 共通テストの議論には「致命的欠陥」がある!

マーク試験には必勝の「裏ワザ」がある
芳沢 光雄 プロフィール

2011年に日本数学会は大学生約6000人に対し「大学生数学基本調査」を実施し、「偶数に奇数を足すと必ず奇数になることを証明せよ」という中学2年レベルの問題を出題したが、その結果は惨憺たるものであった。

採点の現場で見ていても、記述式の数学問題に対する解答に、マークシート問題に対する裏ワザのような解答を書く学生が目立つようになってきた。

「『よく分かる』という言葉の意味を、『プロセスをよく理解できる』という意味でなく、『やり方を簡単に暗記できる』という意味に捉える高校生が相当数増えている」という指摘を、多くの教員から聞くようになった。

その結果、拙著『「%」が分からない大学生』(光文社新書)で指摘したとおり、暗記でなく理解の学びが必須の「%」の概念を、あまり理解していない大学生が大量に現れている。

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私が講談社ブルーバックスから出版した『新体系・高校数学の教科書(上・下)』や『新体系・中学数学の教科書(上・下)』に対しても、「内容の理解はともかく、『やり方』だけ簡単に暗記できる本にしてもらいたかった」という奇妙な要望がときどき寄せられる。

「記述」なしでは「数学好き」は生まれない

さて、AI時代を視野において、来年度から小学校でもプログラミング教育が始まる。プログラム文を書くことと数学の論述文を書くこととは似ている面があり、後者の力は前者の基礎として大切である。また、グローバル化の進む社会では、「結論」だけでなく「プロセス」をしっかり述べることが大切である。

そのような背景を踏まえて、昨年末から本年前半にかけて経済産業省、経団連、政府の教育再生実行会議などから、理系ばかりでなく文系に対しても「数学重視」の提言が矢継ぎ早に出されている。

そのためには、日本の子どもたちの多くが、「数学嫌い」から「数学好き」に変わることも必要である。

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そこで留意すべきことがある。マークシート式に答えを当てても、数学は好きにならないのである。

定理や応用例を導くプロセスを理解し、自分自身でも説明できるようになって、初めて数学を好きになるのだ。

入試において、どこかの段階で記述式の数学試験を設けるべきであろう。

実際、国公立大学の2次試験ばかりでなく私立の同志社大学でも、全問記述式の数学入試を続けている。採点の苦労は相当なものであることを知る者としては、その意義を踏まえての苦労には頭の下がる思いがする。

私の本務校の桜美林大学でも2013年2月の一般入試から、全問記述式の数学入試を導入した(一部日程ではマークシート形式の数学入試が存続)。リベラルアーツ学群で数学専攻に進む学生に限ってその入試を選択している場合が多いことに驚かされる。

日本数学会は2012年2月21日に、「大学生数学基本調査」(前出)に基づく数学教育への提言を発表し、その中で下記のことを述べている。

・中等教育機関に対して:充実した数学教育を通じ論理性を育む。証明問題を解かせる等の方法により、論理の通った文章を書く訓練を行う。

・大学に対して:数学の入試問題はできるかぎり記述式にする。1年次2年次の数学教育において、思考整理と論理的記述を学生に体得させる。

この提言によって、多くの大学の入試に数学記述式問題が出題されるようになり、日本の教育が「暗記型」から「論述型」に変わることを期待した。

しかし、その後の展開は完全に期待外れのものとなった。逆に桜美林大学の入試が目立つ結果になったことを歯がゆく思った次第である。

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