2019年秋の連ドラの目玉はなんといっても米倉涼子主演の『ドクターX~外科医・大門未知子~』(テレビ朝日木曜夜21時~)。2012年にスタートしたドラマだが、シリーズ3回目にして初回視聴率は20%を超え、もはや国民的ドラマといっても過言ではないだろう。

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このドラマを2012年初演時から企画したのがテレビ朝日のプロデューサー・内山聖子さんだ。1997年の『ガラスの仮面』2004年の『黒革の手帖』、そして2012年から『ドクターX~外科医・大門未知子~』など大ヒット作を次々とプロデュースし、現在は総合編成局ドラマ制作部のエグゼクティブプロデューサーとして「テレ朝ドラマの顔」の一人である。

しかし、内山さんはテレビ朝日入社当時、秘書室に配属された。「テレ朝のドラマの顔」は一朝一夕にはならなかったのだ。そんな内山さんの仕事遍歴を綴ったエッセイが『私、失敗ばかりなので ~へこたれない仕事術』(新潮社)だ。「私、失敗しないので」を決めゼリフとした『ドクターX』の名プロデューサー誕生までの「失敗の記録」ともいえる本書は、失敗や遠回りとどう向き合っていくかで人生が大きく変わることを教えてくれる。

その中で、年始の大作を抱えた際に内山さんを突然襲った「事件」は、多くの失敗の中でも「健康でなければ何もできない」ということを教えてくれた「大失敗」だったという。一体内山さんに何が起こり、そして突如仕事から離脱せざるを得なくなった状況からどのように立ち上がったのだろうか。

インタビュー・文/上田恵子

口の端からダラダラと水がこぼれて

体の異変に気づいたのは、2006年12月半ばの朝5時頃。洗面所で歯を磨いていた時に、鏡に写る自分の顔に違和感を覚えたのが最初でした。「あれ、何か変だな?」と思った次の瞬間、口の端からダラダラと水がこぼれ、思い通りに口元を動かせない状態に。私は41歳でしたが、一瞬「脳梗塞」の文字が頭をよぎりました

朝起きたら顔がおかしい……(写真はイメージです。写真の人物と本文は関係ありません)Photo by iStock

その頃は、私にとって初の歴史ものとなる新春ドラマ『白虎隊』の制作が終盤に差し掛かっていた時期。その日も朝から新幹線に乗って、京都で行われる薬師丸ひろ子さんのナレーション録りに立ち会う予定でした。

山下智久さんを主人公としたこの『白虎隊』は、史実にある悲劇というだけではなく、激動の時代を生きた青年たちの絆や戦時下に於ける母と息子の愛を描きたくて、2年前から企画をあたためていた作品です。史実を扱っているため、取材にかなりの時間を要し、脚本家の内館牧子さんとの理解のすり合わせなどにも現代ドラマとは違う難しさがありました。

しかも当時の私は、同時進行で米倉涼子さん主演のドラマ『わるいやつら』の準備もし、アシスタントにつけた10歳下の後輩プロデューサーに仕事を教え、といった具合で超多忙。やりたい仕事に携われる楽しさが勝っていたとはいえ、心身に普段以上の負荷がかかっていたことは間違いありません。