インフルエンザの流行が本格化している。今年は例年よりも約4週間早く11月時点で流行期に入り、12月になると、全国の小中学校では、インフルエンザによる学年閉鎖や学級閉鎖が相次いでいる。年末の多忙な時期、なんとか感染を免れたいものだが、何とか有効な手立てはないものだろうか。
感染症予防として推奨されているのが、マスク・手洗い・うがいの励行だ。しかし、大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏は、こうした予防策の効果はきわめて限定的だと否定的だ。その理由を聞いてみた。

マスクでは感染は防げない!
インフルエンザやかぜが猛威を振るっていますが、こうした病原体からの感染を防ぐ方法にはどのようなものがあるのでしょうか。皆さんが最初に思いつくのがマスクの着用でしょう。
冬に日本を訪れる海外の人たちが驚くのは、マスクを着用している人の割合が非常に大きいことです。では、マスクは病原体の侵入予防にどのくらい効果があるのでしょうか。
2009〜2011年、イギリスで行われた調査では、インフルエンザに関する限り、マスク着用だけでは予防効果はほとんどないか、きわめて低いという結果が出ています。また、同様の結果が日本で行われた小規模研究においても確認されています。さらに、世界保健機関(WHO)発行の感染予防マニュアルには「マスクによる上気道感染の予防効果にははっきりとしたエビデンスがない」と書かれています。
これは、ウイルスとマスクの網目の大きさを考えてみたら、当然ともいえます。というのは、インフルエンザウイルスの直径は0.1マイクロメートルぐらい、一方、通常のマスクの網目は10マイクロメートル以上だからです。つまり、マスクの網目はウイルスの100倍以上も大きいのです。したがって、空気中を漂うウイルスをマスクだけで防ごうとするのは無理です。
ただし、くしゃみのように、飛沫の中にウイルスが含まれている場合には、マスクが飛沫をひっかけてくれる可能性があります。しかし、感染した人のくしゃみを直接浴びるようなことは少ないので、実際のマスクによる感染予防効果はかなり低いものと考えていいでしょう。

一方、マスクをすると口と鼻が覆われるので、ある程度の保温・加湿効果が得られ、ウイルスは温度・湿度が高くなると活性が低くなることから、マスクも役に立つのでは、という意見もあります。しかし、マスクによるウイルス遮断効果がそもそも非常に低いことから、保温や加湿効果でウイルスの数が少々減っても、それが果たして感染予防にどの程度効果があるかは疑問です。
防御壁としての効果はあるのでは?
これとともに最近、テレビなどでは、ウイルスはいろいろなものの表面に付着しているので、知らずにウイルスが手や指に付き、その手で口や鼻を触ると上気道感染が起こりやすくなる、一方、マスクをするとその確率が下がるのでマスクにはそれなりの意味がある、という議論がなされています。
しかし、2010年に出たWHOのウイルス拡散予防の資料によると、インフルエンザウイルスが手に触れると、5分以内にその感染力が100分の1から1000分の1と、大きく減るとのことです。
また、上述したごとく、マスク着用だけでは上気道感染の予防効果は非常に低いことがわかっているのですから、汚染された手や指で口や鼻を触らなくなることの重要性は果たしてどのくらいあるかは疑問です。私の目から見ると、もしマスクに効果があるとすれば、くしゃみの飛散をある程度防げるので、他人に対してウイルスをまき散らす機会が減る、つまり、他人に風邪をうつしにくくなる、というぐらいのものだと思います。他人からもらうのを防ぐ意味は低いでしょう。
実際、厚生労働省の「インフルエンザ総合対策」には、「咳・くしゃみが出る時は、他の人にうつさないためにマスクを着用しましょう」と書かれ、他人からうつるのを防ぐ意義については触れられていません。一方、テレビや新聞では、冬になると「人混みに出るときにはマスクを」と決まり文句のように繰り返し、実際に多くの人々が日本ではウイルスをもらうのを防ぐためにマスクを着用していますが、私から見ると、その意義はかなり疑問です。