何をしておいてあげるべきだったのか?
さて、康夫さんは、絵里子さんのために何をしておいてあげるべきだったのでしょうか?
たった一言でいい、遺言を書いておいてあげるべきだったのです。
「全財産を絵里子に遺贈する」と。

もちろん法的要件を満たしている遺言でないと通用しませんので、一人ででささっと書くのではなく、専門家に相談するか、公正証書遺言を作成しておく方が余計な争いを未然に防げるでしょう。
そして、ここで重要なポイントです。
亡くなった方の相続人には、相続時に最低限の取り分を主張できる、「遺留分」という権利が認められています。
たとえ遺言で何が書いてあっても、相続人が求めれば、この遺留分までは相続人に渡すこととなります。
しかし、この遺留分が認められているのは、亡くなった方の配偶者や子、両親までであり、兄弟には、この「遺留分」が認められていないのです。配偶者や子、両親と比べ、亡くなった方との関係性が薄いためです。
ですから、康夫さんのこの一言さえあれば、相続人が兄弟のみのこのケースでは、全財産を絵里子さんに渡すことができたのです。
絵里子さんが住み慣れた自宅を追い出されることも、悲しい思いをすることもなかったのです。
もしくは、受取人を絵里子さんにした生命保険に入っておくべきでした。
生命保険金は、相続財産ではなく受取人固有の財産とされています。
ですから、受取人が絵里子さんである保険金については、康夫さんの兄弟三人にもっていかれる心配もなかったのです。
ただし、近年は保険金トラブルを防ぐため、一部例外を除き、保険金の受取人を配偶者と二親等以内の親族に限定している保険が一般的です。