現場からの声
筆者は東北大学で大学入試についての研究を行いつつ、入試の実務にも関わっている。専門性を持って「現場」に立ち会ってきた自負がある。
個別大学の入試に携わる人間としては、制度が許容する範囲内で最大限の努力を行うことが自分の使命だと思っているので、今は来年4月の大学入学を目指して努力を重ねている受験生の皆さんを心静かに応援していたい。
ところが、11月1日に文部科学大臣の裁定で英語民間試験活用のための「大学入試英語成績提供システム」の導入を見送る決定がなされるなど、受験生を取り巻く環境が騒がしくなっている。関連して報道関係の方からコメントを求められることも多々あったが、私の任ではないと考え、申し訳ないが全てお断りしてきた。
今回、執筆のオファーをいただいた際も、お引き受けすべきか否か躊躇した。しかし、悩んだ末に僭越ながら私見を書かせていただくことにした。実践に近い教育研究者の立場から現状の問題点を整理することならば、私にもできるかもしれない。したがって、本論考はすべて私個人の考えによるものであり、私が所属する東北大学の公式見解とは一切かかわりがないことをあらかじめお断りしておく。

現在、大学入試改革で起きているのは、「高校の現状を糺す」という名目の下に公平性が犠牲にされているという事態だと総括することができる。その一方で公平性が犠牲になりつつあるが、大学入試において「公平性」は断固守られるべき至上の価値の一つである。
本稿ではそのことを主題に論じる。なお、大学入試改革の中で「高校の現状」とされている認識が30年以上前の大時代的なものであることは前稿「高校も大学も頭を抱える「センター試験改革」あまりに多すぎる問題点」で述べたので繰り返さない。