伊藤さんの弁護士は記者会見で、「刑事では不起訴だったことをどう考えるか」という質問に、「当時、不起訴になったことをどう評価するかは難しい」とまず答えました。
そして、「性暴力の被害に遭って(刑事訴訟を求めて)も、門前払いや不起訴が多い状況をどう思うか」と聞かれると、伊藤さんは「自分は法律の専門家ではない」と前置きしたうえで、「事件当時の刑法では起訴は難しかった、ということは言えると思います」と話し、性暴力の被害者を取り巻く法的・社会的状況を変えるための、刑法の見直しを求める活動に意欲をにじませました。
性暴力被害者を勇気づける前進
今回、山口氏の伊藤さんに対する名誉棄損の訴えを裁判所が退けた理由にも、このような「性暴力の被害者を取り巻く法的・社会的状況を改善しよう」という動きや意識の高まりがかかわっています。
裁判所は、伊藤さんがこれまで著書や会見、マスコミへの出演などで事件について明らかにしたことについて、「公共の利害にかかわる事実につき、専ら公益をはかる目的で表現されたものと認めるものが相当である。公表した内容も真実と認められる」とし、山口氏の訴えを退けました。伊藤さんの行動は、性暴力被害者が声を上げにくい状況を打破するという「公益」に資するものだった、ということを認めたといえるでしょう。

伊藤さんは会見で「真実であっても、名誉棄損で罰せられることはありうるので、緊張していました」と話しましたが、弁護士はこの認定について「性暴力の被害者にとって非常に勇気づけ(られ)る事実になるんじゃないか。やっと一歩、出ることができたかなと感じています」と評価しました。