滅びゆく文化
そして「レイのテーマ」についてもうひとつ注目すべきなのは、「怒りの日」に基づく鐘の旋律の後に登場する主旋律には、「フォースのテーマ」と同様のコード進行が使われている点だ(コードネームで書けばAm→Dというような、短調の主和音から明るい下属和音へ移行する和声進行)。もちろん、レイがフォースの使い手であることを暗示してもいるのだろうが、同時に「フォースのテーマ」と通称されているこの旋律は、当初「オビ=ワン・ケノービのテーマ」として書かれたものだったことを忘れてはならない。
前述した「フォースのテーマ」の和声進行は専門用語でいえば“ドリアの4度”と呼ばれる、長調と短調が確立する以前の教会旋法に基づくハーモニーであることが重要で、オビ=ワンがジェダイという滅びそうな古い文化に属しているからこそ、ジョン・ウィリアムズはこのような音楽を書き下ろしたのだろう。
そう考えると、「フォースのテーマ」の音楽的意図がより明確になる(ただし、この音楽を「二つの夕日 Binary Sunset」の場面にあてがうことを決めたのはジョン・ウィリアムズではなく、ジョージ・ルーカスだったという)。
以上の文脈を踏まえると、「レイのテーマ」のなかには、「Burning Homestead」や「フォースのテーマ(※Binary Sunsetを含む)」の要素が内包されているため、レイがタトゥイーンの水分農場を訪れたのは、音楽的な伏線を回収するためにも必然的な場面だったことが分かる。エピソード7『フォースの覚醒』で撒かれた種は音楽的な観点からも見事な花を咲かせており、全9部作を見事に締めくくっているのだ。