保守化する大卒層
では実際のところ、大卒層はどの程度リベラルなのだろうか。まず、大卒層の公正観については、2010年に行われた全国調査(以下、SSP2010調査*4)データを用いた分析によれば、非大卒層に比べ、大卒層の方が新自由主義的な価値観を持っているという(吉川 2014)。
ここでいう「新自由主義的価値観」とは、自由競争の結果、社会で生じることになる格差を肯定するような価値観のことをさしている。つまり、弱肉強食的な社会のあり方の肯定という、期待されたリベラルさとは異なる、大卒層の実態が垣間みえる。

次に、大卒層の前例踏襲的な価値観を、「権威主義的態度」という指標でみてみることにしよう。ここでいう権威主義的態度とは、伝統や権威に従い、それらにそぐわない考え方をしりぞけるような態度である。
従来、大卒層については、非大卒層に比べて反権威主義的であることから、リベラルであるといわれてきた。しかし、SSP2010調査データの分析によれば、1995年から2010年までの15年の間に、大卒層の反権威主義的態度は、顕著に弱まったと報告されている(松谷 2014)。つまり、リベラルさを期待された大卒層は、徐々にその期待に応えられなくなりつつあるという、保守化の様相が浮かび上がってきているのだ。
文系はリベラルではないのか?
こうした保守化する大卒層の中でも、アカデミアや左派から期待を向けられる人々がいる。それは、一般に「文系」と呼ばれる人々だ。
これらの大卒層に期待が向けられるのは、文系がリベラルだと考えられているためだ。例えば、各国の研究大学が採択した『Leiden Statement』という声明では、人文社会科学がリベラルな価値意識を養う学問分野として位置づけられている(AAU et al. 2014)。また、既に与えられた価値のもとで目的を遂行することを得意とする理系に対して、既存の価値それ自体を問い直し、新たな価値を創造するのが文系だといわれる(吉見 2016)。
もしそうであるならば、大卒層において弱肉強食的な価値観も強く、反権威主義的な態度が弱まりつつあるという傾向が明らかになったとき、「同じ大卒層のなかでも、文系は違うのではないか」と願いたくなる人々の気持ちも、わからなくはないだろう。