私の研究室に、旧帝大の学生6人が訪問してきたときのこと。雑談で阪神大震災のエピソードを紹介した。高校生ボランティア11人が来たので、被災者が暖を取れるように焚き火をたいてほしいと頼み、ライターを渡してその場を離れた。1時間後に戻ってきたらまだ火が起きていない。何していたの? と聞いたら、「角材を1時間ライターであぶりましたが火はつかず、親指をヤケドしました!」と、親指を見せられた、という話だ。
11人もいて火の起こし方も知らなかったんだよ、と笑ったら、大学生たちがみな赤い顔になった。どうしたの? と聞いたら、
「太い木材でもそれで火が着くと思っていました」
と答えてくれた。
この話を学会誌の編集委員会で披露したら、大学教授の先生方が驚愕していた。「燃焼という科学の基本中の基本の現象を、本質的な意味で理解できていないということですよね…」。うちの学生は大丈夫かな、とみなさん心配し、ざわめきが起きた。
件(くだん)の大学生たちも、40歳近くになるはず。彼らとは今も交流があり、一人は「炭焼き名人」と呼ばれるようになった。面白いものだ。
大ナタを使いこなす、バリ島の女の子
話が飛んで、インドネシア。バリにほど近い島へ卒業旅行に行ったとき。地元の人が手招きし、身振り手振りで椰子の実のジュースを飲むか、という。飲んでみたい、と答えると、小さな女の子が自分の頭ほどもある巨大なナタを振り下ろし、椰子の実の頭に器用に五角形に刻みを入れ、フタを開けて中身を飲ませてくれた。
年齢を尋ねたら、5歳だという。私は心底驚いた。こんな幼い子が、持ち上げるのも苦労しそうな大ナタを器用に使いこなすなんて。しかも親は横でニコニコ見ていた。

左手はちゃんと危なくないように椰子の実の横に添え、一つ刻みを入れては適度に回し、五角形に刻む。その聡明そうな笑顔から察するに、どうやら生活技術のあらかたはマスターしているらしい。この子が教育を受ければ、相当のところまで達するだろう、と私は考え込んだ。