好評連載「今月の科学ニュース」、今月は日本ではあまり報じられていない、「麻疹ウイルス」をめぐる驚くべき発見をご紹介。
理科準備室とかにある「あれ」が活躍しております!
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100年前の標本から大発見
「ホルマリン漬けの標本」というと、博物館の片隅か、研究室の棚に忘れられたように置いてあって、見るとなぜか背筋がざわっとするもの、というイメージがある。
「ホルマリン漬け」は、厳密には「ホルマリン固定」という。生物の組織をホルマリンで化学処理することで、生化学反応を止めて分解や腐敗を防ぐ、標本の作製方法だ。
ホルマリン固定した生物標本を、アルコールなどを満たした容器内で保存すれば、常温でもかなり長期間の保存ができる。ロンドン自然史博物館には、1832年にダーウィンが大西洋のカーボベルデ諸島で採集したタコの標本が残っている。
そしてドイツのベルリン医学史博物館の地下室には、脳や胃、心臓など、さまざまな臓器の解剖標本が保管されている。

「病理学の父」と呼ばれる19世紀の病理学者ルドルフ・フィルヒョウが収集しはじめたもので、現在ではホルマリン固定標本のほか、乾燥標本など合計1万点におよぶ。

この歴史的コレクションのなかに、100年以上前の肺のホルマリン固定標本がある。1912年に、麻疹に感染したあと、気管支肺炎で亡くなった2歳の女の子の肺だ。
ロベルト・コッホ研究所のカルヴィニャック・スペンサー博士らは、この肺の標本から麻疹ウイルスのゲノムを取り出すことに成功した。現時点で見つかっているものでは最も古いという。
麻疹ウイルスは、ゲノムをRNAの形で持つタイプのウイルスだ。しかしホルマリン固定標本では、RNAがほかの分子とくっついてしまっている。このため研究チームは、肺のサンプルを98度で15分間「ゆでる」ことで、RNAがくっついた部分を切断し、ゲノムを再構築した。