掛け算による「ユーザーの超理解」
ここまで語ったことは私が分析してきたことのほんの一部です。1年ほど前からは、まったく次元の異なる新しい領域にチャレンジしています。
それは、ビッグデータ同士の掛け算による「ユーザーの超理解」です。
どういうことか、説明していきましょう。
先ほどの混雑予測では、位置情報という単一のビッグデータを利用していました。それをYahoo! JAPAN IDと紐づけると、「Yahoo!検索」での検索履歴や「Yahoo!ショッピング」での購買履歴など、別の種類のビッグデータが得られます。
位置情報のビッグデータとこれらのビッグデータを掛け合わせることで、ある場所にいる人々の集合がどのような属性を持つかについての傾向を調べることが可能なのです。◯月△日に開催された、東京ドームの某アイドルグループのライブイベントに集まった人々が、普段どのような検索をしているか……ということもわかります。

また、もし健康状態のセンシング技術が進歩したら、こんなことも手軽にわかります。
私が長年悩まされている頭痛は、低気圧によるものではないかと考えているのですが、低気圧になると必ず頭が痛くなるかというと、必ずしもそういうわけではありません。
そこで、気軽に気圧の変動との関係が分析できるようになったとして、自分の健康状態のデータと気圧の変動に関するデータを掛け合わせてみたとしましょう。
すると、低気圧であることに加えて、体が疲れている時なのか、もしくは全速力で走った後なのかといった条件を、正確に分析できるのです。
今後、ビッグデータはますます多様化していきます。生活に関するデータは、今でこそ主にスマートフォン経由で生まれていますが、たとえばスマートウォッチやワイヤレスイヤホンなどのように、目や耳、鼻、人間の体の各部位にコンピュータが分散し、センサーを作動させ、あらゆる人間のデータが複合的に蓄積されていきます。
それら様々な種類のビッグデータをいくつも掛け算することによって、人間の想像を超えるような結果を得られます。
ある人が自分のことを知っているよりもはるかに、データのほうがその人のことを広く深く、良く知っている――それこそが、私がデータサイエンティストとして目指している「ユーザーの超理解」です。
「気持ち悪い」の先に、「気持ちいい」がある
幕末の日本でカメラが使われ始めた頃、「写真を撮ると、魂を抜かれる」と噂されたという話があります。
ビッグデータの場合も、そのときと同様だと私は考えています。今はまだ、自分の位置情報やネットショッピングの購買履歴など、自分のパーソナルな情報を企業に提供することに対して、気持ち悪いと思ったり、抵抗を感じたりする方もいるかもしれません。
それは、今はまだ、提供されるサービスの説明が不十分だったり、サービスの精度が中途半端なものにとどまっていると思われるからです。
しかし、「気持ち悪い」を通り越した先に、「気持ちいい」があるのではないでしょうか。
ビッグデータの活用は想像もつかないほどのスピードで進化していくと思いますが、この境地に至ったとき、その恩恵は人々にとって決して手放せないものになっているはずです。
私の予測では、今から5年後には、自分のデータを提供した人は、その恩恵として非常に便利な生活を送れるようになり、データを渡している人と渡していない人で、生活の質に大きな差が生じる世の中が訪れているはずです。その頃には、データが私たちにとってなくてはならない存在になっているでしょう。
スマホで気軽に写真を撮影できるようになった今の時代、カメラなしの生活なんて、想像できないですよね。