新型コロナウイルスの影響はあるか…総統選挙を終えた台湾のこれから

いくつかの必然が台湾に味方している
小笠原 欣幸 プロフィール

台湾アイデンティティの広がり

総統直接選挙は1996年に始まり、今回は7回目である。すでに四半世紀の時が流れた。台湾の40歳以下の人々は、もの心がついた時から1人1票の直接選挙で政治指導者を選ぶようになっていた。この総統選挙は台湾の民主化の到達点であるばかりでなく、台湾アイデンティティの興隆の重要な起点となった。

台湾総統選挙とは、正しくは台湾に存在する中華民国の大統領選挙である。その有権者は中華民国の国民で、選挙区は台湾地区である。

選挙は、中華人民共和国とはまったく関係なく行なわれ、選挙の争点は台湾が中心となる。この選挙を4年に1回繰り返すことにより、「台湾は台湾」「台湾は中国とは別」というゆるやかな台湾アイデンティティが広がり定着した。

〔PHOTO〕gettyimages

台湾が初めての直接選挙に向かって動いていた1995〜96年、こうなることを予想していたのは中国の江沢民指導部であった。江沢民は、総統選挙を妨害しようとして台湾に軍事的圧力を行使し台湾海峡危機を引き起こした。

だが、台湾社会は屈せず粛々と投票を行ない李登輝を選出した。その時から台湾総統選挙は単に総統を選出するだけではなく、台湾は民主主義の政治体制であることを国際社会に向かってアピールする一大イベントとなったのである。

 

「台湾アイデンティティ」というと台湾人意識であるとか中国との区別意識であるとかが強調されるが、民主主義が台湾アイデンティティの構成要素となっていることも重要なポイントである。

中国の最高指導者がどのように選出されるのかは中国の国民も知らない。台湾では自分たちの1票1票の集積で総統が選ばれることは皆が知っている。台湾の有権者は投票という行為を通じて、「民主の台湾のアイデンティティ」を自然に身につけていく。

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