認知症をまねく最大の原因として知られる「アルツハイマー病」。なにやら恐ろしいイメージを持っている人も多いのではないでしょうか。
しかし、アルツハイマー病によって損なわれる脳の働きは、脳全体の働きのごく一部に過ぎません。ここでは、よくある〈アルツハイマー病の誤解〉を解くことで、病気の基本を解説したいと思います。

「アルツハイマー病」イコール「認知症」ではない
アルツハイマー病について、いくつかの誤解が見受けられますが、その1つにアルツハイマー病を認知症と同じものと見ていることが挙げられます。
アルツハイマー病は、認知症をまねく最大の原因ではありますが、この2つは必ずしも同じものではありません。
認知症は、記憶や理解、判断、計算、言語活動などの知的活動にかかわる脳の働きが低下し、日常生活に大きな支障をきたしている状態です。
認知症の6割は、アルツハイマー病が原因で生じるアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー病はアルツハイマー型認知症のほか、認知機能の低下や障害が認知症というほど深刻でない段階にある状態も含むのです。
アルツハイマー病は無症状からはじまり、自分にしかわからない程度の変化が生じる「アルツハイマー病による主観的認知機能低下(Subjective Congnitive Decline : SCD)、認知機能が低下しはじめる「アルツハイマー病による軽度認知障害(Mild Congnitive Impairment : MCI)」を経て、認知症に至ります。脳に病変ができてから症状が出るまでに、20年以上の時間をかけてゆっくり進むと考えられています。

したがって、アルツハイマー病は認知症に至る前段階も含めた広範な意味を持ちます。アルツハイマー病と診断されても、早い段階で対策をとれば認知レベルの低下を防ぐことが期待できるのです。
では、気をつけたい初期症状とはどんなものがあるのでしょうか?
「年齢相応」で安心できない"ど忘れ"
たとえば、最近、ど忘れが多いなぁ、などと感じることがあるなら、それが症状の出はじめかもしれません。
アルツハイマー病の最初に現れる兆候は、多くの場合、記憶の障害です。具体的には、忘れることが増えて、自分で「なにかおかしい」と感じはじめることなどです。「"忘れる"という自覚があるうちは大丈夫さ」などと思っている方も多いそうですが、物忘れが増えた程度の変化も、自分にしかわからない「アルツハイマー病によるSCD」かもしれません。
アルツハイマー病は、できるだけ早期に発見し、進行を抑えることが大切なので、なにかおかしいという兆候は軽視しない方がよいでしょう。
では、さっそく検査を受けてみよう、という方もいらっしゃると思いますが、ちょっと待って! 検査で問題なし、という結果に安心していたら、知らないうちに進行していた、というケースもあります。