2020.03.19

現役ウェブ編集者ぶっちゃけ対談「僕らの仕事の悩みと醍醐味」

知られざる「裏方」の実像を初公開

提供:株式会社クヌギ

ニュースサイトやエンタメサイト、オウンドメディア…、いまどきの編集者の活躍場所は「紙」に限らず「ウェブ」の世界にも広がっている。
しかし、ウェブ編集者の仕事内容は外部からは想像しづらいもの。日々どんな業務をしているのか? 記事作りで大切にしているのは? そして、仕事の「悩み」と「醍醐味」とは?

なかなか知ることができない「裏方」の実像について、SEOコンサルティングやメディア事業を展開する株式会社クヌギ取締役・石川真太郎さんと、講談社「現代ビジネス」編集部・滝啓輔が語り合った。

ウェブ編集者はどうやって「企画」を立てている?

―2人はどういう経緯でウェブ編集者となったのですか?

石川:僕はもともとライトノベルを書いていたんです。大学卒業後、アルバイトをしながら執筆をする日々でした。でも25歳までに目が出なかったらやめるとは決めていて。その日を迎えて、改めて文章を書く仕事に就こうと思いクヌギのライターに応募しました。

その後、記事を統括する編集者になって、今は役員をしています。その間、2年半。まさに怒涛でしたね。僕が入社した当時、クヌギは5人体制で“未経験”などと言っていられないくらいあらゆることにチャレンジする必要がありました。今では組織が40人程度になりましたが、挑戦しやすい土壌は変わらずに残っています。

株式会社クヌギ取締役・石川真太郎さん

:僕は大学卒業後に編集プロダクションに入り、その後、出版社に移りました。何社かで書籍の編集者をしていたのですが、ウェブの世界に興味が生まれ、縁あって現在は講談社の「現代ビジネス」編集部で働いています。姉妹サイト「マネー現代」の記事を企画編集することが多いです。

―編集者は日々何をしているのでしょう?

石川:クヌギの編集者は、日々ユーザーニーズを探り、企画を練っています。弊社では自社サイトを4つ運営しているのですが、そちらへの流入の主力は自然検索。そのため、ユーザーニーズがあるニューストピックに合わせて記事を作ります。

例えば、「クレジットカードを知る」というサイトでは、2019年10月から開始したキャッシュレス促進に合わせて「クレジットカード 作り方」で検索する読者が増えるだろうと予測して、その欲求に応える記事の企画を立てていましたね。

SNSのハッシュタグを検索したり、Googleトレンドなどのツールを使ったり。あとは人との会話の中で企画の種を見つけています。企画を立てる時間を特別設けているというよりは、生活の中でトピックを掬い上げています。

:僕も著者の方や企業広報の方など、人と会う中で企画が生まれることは多いですね。あとは、同じくSNS上でよく見かけるキーワードについて、「みんなが興味があることなのかな?」と考え、深堀りすることもあります。

―では、クヌギのライターは何をしているのですか?

石川:企画ができたら、編集者からライターに「こういう企画をお願いできる?」と相談します。クヌギでは社内ライターが全ての記事を担っているので、どういう構成でいくかなどを編集者と相談して決めます。その後、電話取材や市場調査をしてライティングします。

:「社内ライター」にこだわっているのはなぜですか?

石川:すべての方がそうではないでしょうけど、外部の方にお願いすると、納期が遅れたり、お願いしたとおりに原稿が仕上がらないこともあって。きちんとした質の記事を安定的に供給するためにも、全員、社内ライターという体制です。

:それは御社の特徴ですね。出版社がやっているウェブメディアは、あるテーマについて自分たちより詳しい専門家の方に書いていただり、お話を聞くことが多いです。誰にお願いすればいいのか、その「誰」を見つけることが、企画のキモと言えるかもしれません。

一方、社内ライターの場合は、特定テーマについてのノウハウや知識が組織の中で蓄積していきますし、心強いでしょうね。ちなみに、初心者からライターとして成長していくこともできますか?

石川:はい。研修もしますし、育成体制は整っています。また、コーチングも重視していて、編集長などの管理職以上はグロービスで学び、編集者の育成、そしてそのもとで働くライターの育成へと繋げていきます。

記事作りでいちばん大切にしていること

―ウェブメディアを作る仕事の醍醐味を教えてください。

石川:トレンドを予測してメディアを作っていくことはおもしろいですね。例えば、僕らは東京オリンピックにより、訪日外国人が増えるのを予想して、2年前から訪日外国人向けの英語のサイトを運営しているんです。2〜3年後、新たなトレンドがくるだろうと予想してメディアを仕込む仕事はワクワクします。

:それは意外でした。ベンチャーでそこまで長期スパンで計画を練っているんですね。

石川:そうですね。一般的には、僕達規模のベンチャーは目前の資金繰りが重要なのでなかなか長期スパンでの仕込みをすることはできませんよね。しかし、弊社では中長期の仕込みも大事にしています。ただし、立ち上げの際には、余裕を持つことはなかなか難しいので、中長期のビジョンを持ちつつ最初は「気合い」と行動で推し進め、形にしていきます。

:気合い(笑)たしかに、立ち上げには精神力も欠かせないですよね。「マネー現代」もオープンまでは相当の気合いが必要だった思い出が……

それはともかく、次に立ち上げてみたいサイトはありますか?

石川:会社に関係なく、個人的にやりたいのは、観葉植物のサイトです。今は、観葉植物の専門メディアはないんですよね。リラックス効果などが注目されている観葉植物は、会社設置のニーズがあるし、贈り物にも選ばれやすい。自宅でも置きますしね。これまで作っているところがないから、挑戦してみたいんです。まぁ、市場規模は大きくないので、PVや売り上げはあまり期待できないと思いますが(笑)

―記事作りで大切にしていることを教えてください。

石川:僕たちは、読者のためになる記事を作ることに徹底的にこだわっています。企画を練る際にももちろん考えますが、過去にリリースした記事を作り変えたり、不要なものは削除したりもしていますね。例えば、昨年のクレジットカードのキャンペーン記事は、今年バーションに新しく作り直します。検索で古い記事が出てきても、今のキャンペーン情報を知りたいユーザーにとっては使えない情報ですからね。

サイト内の記事を全て把握する勢いで改編に当たるので管理はめちゃくちゃ大変ですが、それが読者のためになるならば手を抜きたくないんですよね。

:それはとても「誠実」なメディアですよね。ニュースサイトの場合は、もちろん事実誤認を修正することもありますが、刻一刻と状況が変わる中で、より正確な続報を出すことに重点が置かれているように思います。

石川:そうですね。そこもニュースサイトか否かの違いのように思います。

ちなみに僕らの場合は、読者のことを考えて作り手である編集者やライターも専門性を持ったほうがいいと考えています。そこで、去年金融メディアを担当している編集者全員でファイナンシャルプランナーの資格試験を受けに行きました。記事は監修者の方にもチェックはしてもらいますが、作り手の知識も高めておくに越したことはないと思ったんです。

:そこまでするんですね!すごい専門家集団ですね。

「現代ビジネス」編集部・滝啓輔

石川:はい、チーム作りにもプラスになるとの思いもあって、実施しました。

一つ気になっていたのですが、私たちは、ニーズが生まれるのを予測して動くのですが出版社さんのメディアってニーズを生みませんか? 言い換えると、自分たちでトレンドを作りにいきません? それは影響力が大きいからこそできることですよね。

:漫画や小説など、コンテンツの力で広く売れていったものが、結果的にトレンドを作るケースはあると思います。

ただ、メディア側が「トレンドを作ろう」と躍起になっても、こちらの思惑通りに動くというわけでもありません。

クヌギさんとは手法が違うだけで、1日1日と変わっていく読者の関心事を追いかけているということは、僕たちも変わらないと思います。

―石川さんはライターも経験されていますが、編集者とライターとでやりがいは違いますか。

石川:クヌギのライターのやりがいは、機会が平等で、新人でもベテランに勝つことができるところですかね。評価は完全に、ユーザーアクションやGoogleの検索順位で判断しているので。編集者の場合は、「なんでこの記事はユーザーにウケるんだろう」と分析することにやりがいを感じますね。それが結果的に良質な記事を生むことにもつながります。

:読者の評価が第一ということですね。わかりやすい「数字」をもとに、自身の仕事への手応えを持てるのは、ウェブ編集者のいいところですよね。

表裏一体のウェブ編集者の悩みとやりがい

―普段の業務の中で大変なことはありますか。

石川:「なんでもやる」ということですね。“ベンチャーあるある”なのかもしれませんが、ノウハウがなくて前例もない中で自分たちで試行錯誤しながら活動していくしかありません。

:もしかしたら、その状況はウェブメディア全体に言えることかもしれませんね。雑誌や新聞は僕たちが産まれる前から社会にあったじゃないですか。けれどウェブメディアは人生の途中で登場した。ウェブメディアをどうマネタイズしていくか、どんなカタチにしていけばいいのか、まだこれといった「正解」がない領域なのだと思います。その答えを求めて、なんでも試しながら走り続けるイメージなのかもしれませんね。

―編集者やライターはかなり忙しいというイメージがありますが、いかがですか?

石川:弊社では、そんなことはないですよ。ライターの場合、残業はほぼゼロです。編集者でも、月に10〜20時間程度ですね。クヌギは、決められた時間の中で最高の成果を出そうということが企業文化になっているんです。その方が、個々の仕事効率も上がりますよね。

:それは非常に重要なことですね。仮にクヌギで働いてから今後フリーランスになりたいと考えている方にとっても、仕事スタイルを身につけるよい機会になるんじゃないかと思います。とはいえ、編集者の場合、仕事とプライベートとの区別がつかなくなるということはありませんか?

石川:大いにありますよね。でも、それが楽しみにもなりうる。

:おっしゃる通りです。漫然と過ごしていると記事の企画やサイトをどうしようという発想が枯れちゃいますよね……。だから普段からアンテナを張らないと。ちょっとしたことですが、僕は同時期に何人かから勧められたマンガや音楽には触れてみるようにしていたり。

この仕事の場合は、大変さと醍醐味は表裏一体ですよね。面白いものを探したり、アイデアを考えるのが嫌になった時はやめ時なのかもしれません。

石川:少し小難しいことをいいますが、「読者のため」に徹底的にこだわると、結果的には「自分のため」につながると思うんですよ。マズローの5段階承認欲求のピラミッドってあるじゃないですか。一番上は、「自己実現」ですよね。そして、弊社の編集者やライターに「あなたの自己実現ビジョンはなんですか?」と尋ねると、「ユーザーのためになる文章を書くこと」と言います。

つまり、「ユーザーのため」イコール「自分の自己実現のため」でもあるんです。だから、僕は「読者のため」に徹底的にこだわると自分も書き手として幸せになっていくと考えています。

:なるほど。僕の場合は、「読者にこういうことを知ってほしい」という願いの根底に、「自分が知りたい」があるんです。自分自身が全く興味がないのに、読者に「これを知ってください」という企画は、なかなかうまくいかない。結果として、良い記事を作ることが自分の満足につながっているというのは共感しますね。

―ウェブの編集者やライターにはどんな人が向いているのでしょう?

石川:自責で考えられる人は向いていると思います。自分で変えられることは、自分のことだけですよね。

例えば、ライターが編集者に「早く原稿のチェックをしてほしい」とどれだけ頼んでも、その編集者が自分が思うように動くとは限らない。それがわかっていれば、先に構成を出しておいて、原稿内容は編集者がサラッと確認するだけで済むレベルにしておくなどの対応が考えられるかもしれません。自責で考えて、業務を見直していける人は成長が早いですよね。

:そうですね。そこはもう編集者やライターに限らず、ビジネスパーソンとしての成長速度に繋がりそうですね。記事作りの中で自己実現を果たし、仕事のフローを見直す中でもどんどん成長していける。ウェブ編集者という仕事は、自分の裁量でできる範囲が広い仕事なのかもしれません。

石川:そうですね。前例がないことを楽しめるような人には向いている仕事だと思っています。「読者のために」を軸にしながら、新しいことに挑戦していけるような編集者やライターの方とこれからも一緒に働いていきたいと思っています。

本日はありがとうございました。

*クヌギでは現在、編集者・ライターを募集しています。
https://www.kunugi-inc.com/recruit

取材・文/佐藤智 撮影/白井智
提供:株式会社クヌギ