2020.04.03
# 教養 # 文学

太宰治の古書で一番「価値がある」作品は? 古書探偵が解き明かす!

古書探偵サイコ
松本 彩子 プロフィール

先ほどの300万円の『晩年』に話を戻しますと、その来歴は正しいものでした。

前述した『晩年』の編集を手伝った尾崎一雄が1冊、自宅に保存用として保管していたものをブンガクドウ、つまり文学堂が尾崎に頼み込んで購入したそうです(金額は不明)。その後、文学堂が京都の市場に出品→龍生が300万円で落札→神保町のけやき書店が買い取った・・・・・・という流れです。

ちなみに、『晩年』をめぐっては、別のエピソードもございます。太宰治は昭和13年に井伏鱒二の紹介で甲府に住んでいた石原美智子さん、後々太宰夫人となる女性とお見合いするのですが、その時、世話になった方に名刺代わりに『晩年』を謹呈、石原家が紹介した宿の主人が所有されていたのです。もう、歳を重ねたから、意味の解る方に手渡すのが筋であると申され、その後、手放されたそうです。

作家の人間関係が「探偵」の鍵

このように、作家の人間関係を丹念に洗っていくと、古書の持ち主の姿が想像できます。また、そうした本の中には、作家が献呈署名を入れている場合もあり、文字が多くなればなるほど、宛先が著名人であればあるほど当然ながら高くなります。

業界の隠語では「本が汚れててねぇ」と、嬉しい悲鳴をあげます。

新居格宛の献呈署名付『晩年』(川島幸希氏所蔵)

ちなみに、太宰治、直筆色紙の相場は100万、手紙類も高値で取引されます。文字が多いほど文学的価値が高く、一文字何万円にもなる計算です。

太宰が親族に自著を贈った事例はけっこうあるそうで、現に『駆込み訴へ』を売りにきた人には親戚筋の方もいたと聞いております。たとえ親戚であっても、作家の文学に興味がなければ、本を売り、その人に価値観に見合ったことにお金を使えばいいのです。古書蒐集はあくまでも趣味の領域なのですから。

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