郷原信郎・弁護士インタビュー vol.1
「小沢一郎捜査で露呈した東京地検特捜部が抱える病巣」
田原 郷原さんは元東京地検の検事であり、また検察官時代は政治関係の事件に関わってきたプロです。一方で小沢一郎元民主党幹事長にかかわる事件の捜査については、検察の姿勢を厳しく批判しています。
鳩山由紀夫さんが首相を辞めて、同時に小沢一郎さんが民主党幹事長を辞めた。それで菅直人内閣になったとたん、17%ぐらいだった内閣支持率がグッと上がって60%以上になった。これは、小沢さんを排除したことで支持率が上がっているんだと思うんです、極端に言えばね。

郷原 はい。
田原 それほど小沢さんは、国民に「悪者だ」と思われていた。小沢さんが悪者だと思われた、その原因は「政治とカネ」の問題です。
去年の3月に西松建設の問題で、小沢さんの秘書・大久保(隆規)さんが逮捕された。そこで、そのとき小沢さんは民主党の代表でしたが、代表を辞めた。
それで幹事長として選挙にのぞみました。そうしたら今度は、世田谷の深沢の土地の問題が出てきた。
郷原さんは、西松建設の問題が起きた去年の3月からこ、の問題について非常に関心をお持ちだという。どこに関心をお持ちになったんですか?
郷原さんは言うまでもなく元検事です。まさにプロなんですが、プロとしてどういうところがおかしいとお思いになったんですか?

郷原 まず去年の3月、大久保氏が逮捕された時点で、みんなが思ったのは、最初の逮捕事実は、普通に考えると政治家や有力な政治家の秘書を捕まえる事件としてあまりに軽微だということですね。
田原 虚偽記載でした。
郷原 政治資金収支報告書の虚偽記載ですね。それも西松建設の寄附なのに、それを政治団体の寄附という名義で記載していたという、名義の問題だけです。
それだけのことで、あの時期にあれほど大きな政治的な影響を及ぼすような事件の強制捜査をやるわけがない、と多くの人が思ったわけです。
田原 いつ選挙があってもおかしくない時期ですよね。
ライブドア事件も、村上ファンド事件も問題があった
郷原 だからその背後に、なにかもっと大きな事件があるはずだと。贈収賄とかあっせん利得とか、そういった事件の見通しが立っていて、その入り口としてあの事件に着手したんだろうという見方をする人が多かった。
田原 多くの人がそう思っていましたね。これは単なる入り口であって、小沢さんは東北地方の本当に実力者だから、贈収賄があるんじゃないかとか、そう見ていましたね。
郷原 ええ、前半部分については僕も基本的に同じ見立てでした。
要するに、これだけでやるのはおかしい。常識では考えられない。これだけの事件で、こんな時期に小沢さんの秘書を捕まえたりしない――それが今までの検察の常識だった。
そこまでは同じなんです。しかし「それじゃあ本当にその先に大きな事件があるのか」という部分に関しては、私は最初から「たぶんないだろう」と思っていたんです。
田原 そうですか。
郷原 ええ。
田原 小沢さんはあのとき民主党の代表ですよ。いつ選挙があってもおかしくない、野党の代表です。それに対して致命的なダメージを与えたわけですよね。こんな程度のことでダメージを与えるのはおかしいから、なんか奥にあるんじゃないかと、私もふくめてみんなそう思っていましたよ。
郷原 そこが、特捜検察、今の東京地検特捜部っていう組織の力をどのように評価するのかっていう問題だと思います。
私は別にあの事件で突然検察のことを批判し始めたわけではないんです。ライブドア事件についても、村上ファンド事件についても、検察の捜査の問題はさんざん指摘してきていました。この2000年以降の特捜検察が手がけた事件って、はっきり言ってろくな事件がないんです。非常に捜査能力が低下している。
ですから、最初は「大事件に発展するんじゃないか」と思わせながら、最後はろくな事件にならなかったというケースは、それまでにもたくさんあったんです。
ライブドア事件だってそうじゃないですか。「大変な悪党の会社だったということが分かった。これから特捜部が闇のカネを曝いていく。マネーロンダリングだ、海外の不正送金だとかこれから出てくる」などと言われました。
でも、結局、最終的に起訴された事実はたった54億円の粉飾決算、しかもほとんどそれが会計処理の問題なんです。
田原 だから堀江(貴文)さんに対する判決も、「態度が悪い」とか。
郷原 そうです、情緒的な判決でした。
田原 極めてね。