先に紹介した予備試験組の元弁護士がその実態を語ってくれた。
「こなさなければならない仕事は山ほどあります。朝6時から出勤のため家を出る9時まで仕事をしています。朝10時に出勤してからは昼食を取る暇もありません。18時に退勤後、19時頃に帰宅。食事、風呂を済ませて21時頃から23時頃まで、仕事に追われます。やらないと翌日、とてもきつくなりますから」
業務委託の請負業者という扱いだ。出勤時刻である10時から、退勤時刻である18時まで、事務所内で業務をこなせなければ、自宅に持ち帰って、業務をこなさなければならない。もちろん、残業手当などない。だが与えられた業務をこなさなければ、それは契約違反となる。
ブラックリストが出回っている
それにしても、なぜ、これほどまでに仕事量が多いのか。
ひとえにボス弁や兄弁、即ち経営者サイドにある弁護士たちが、事務所経営を維持するべく、収益性を高めるため、数多くの案件を受任、これを新人弁護士に丸投げしているからだ。
もちろん数多くの案件をこなすには優秀な人材でなければならない。だから狙われるのは、予備試験組、もしくは司法試験合格者を数多く輩出している名門の法科大学院出身の新人弁護士である。
一般企業でも弁護士事務所でも、狙われるのは、素直で、真面目、優秀な人材であることは変わりないようだ。
こうしたブラック弁護士事務所の実態について、元兵庫県弁護士会長の武本夕香子弁護士は次のように語った。
「今、司法修習生の間では、『ここに就職してはいけない』というブラックリストが出回っている。しかし、本当のブラック弁護士事務所は、そこに載っていないことが多いようだ」
これはブラック弁護士事務所側が、周囲に「ブラックである」との風評が流れないよう、退職する新人弁護士に強く口留めを行うからである。