SARSの時もハクビシンを犯人にでっち上げ
ここで思い出すのは、2002年11月に中国広東省で発生してから2003年8月に沈静化するまで世界中で感染を拡大させた「重症急性呼吸器症候群(SARS:severe acute respiratory syndrome)」である。
SARSは2002年11月に広東省の順徳市(合併により2003年1月以降は佛山市順徳区)で発生したが、身元が判明している最初の患者は同年12月に発症した広東省河源市在住で料理人の黄杏初であった。
中国の研究者は感染によってSARSを引き起こすコロナウイルスの発生源を初期段階ではジャコウネコ科のハクビシン(中国語:果子狸)であると言い、最終的にはキクガシラコウモリ(中国語:中華菊頭蝠)であると結論付けた。
しかし、おかしなことに、最初の患者である黄杏初はいかなる野生動物にも接触したことはないと明言していたのであった。
SARS沈静化後の 2004年1月5日に記者会見を行った広東省政府「衛生庁」副庁長の馮鎏祥(ふうりゅうしょう)は、SARSの期間中に野生動物市場の管理を強化し、広東省内の養殖場36カ所で飼育されていた約1万匹のハクビシンが全て殺処分されたと述べた。
なお、輸送中や販売予定であったハクビシンや「貛(アナグマ)」、「貉(タヌキ)」などの動物も一律没収の上で全て殺処分されたのだという。
2003年8月に当時の中国政府「国家林業局」が発表した「商業経営に利用可能な野生動物リスト」にはハクビシンが含まれていた。それはハクビシンの飼育量が大きく、飼育技術も相当に熟練していたからだったのだが、飼育されていたハクビシン1万匹が殺処分されようが、それは野生のハクビシンの数量から考えたらほんの一部分に過ぎなかった。
それはともかくとして、その後の研究結果によれば、SARSの発生源あるいは中間宿主がハクビシンであったという確実な証拠は見つかっておらず、「弁明」の機会を何も与えられることなく殺処分されたハクビシンたちはどう見ても冤罪であったと言わざるをえないのである。
今回の武漢肺炎でも“野味”は新型コロナウイルスの発生源と見なされたために、市場内に“野味”商店が軒を連ねていた華南海鮮市場は閉鎖の憂き目を見たのだった。