中国養殖業界を襲うコロナショック
3月7日付の広州紙「南方都市報」が報道したところによれば、広東省ではカエル類の出荷・販売を暫定的に停止するよう命令があったために、数万トンの田鶏が出荷待ちで養殖池を圧迫していて、少なからぬ養殖業者が生計の維持に困難を来たしているという。
報道の内容は次の通り。
(1) 広州市では食用禁止とすべき野生動物について一般大衆の意見を募集しているが、まだ具体的な食用禁止の野生動物リストは完成していないようだ。深圳市が広州市に先行して作成した『野生動物の全面禁止条例』の草案には、「食用可能品目リスト」が添付されていて、そこには牛、羊、ロバ、ウサギ、鶏(ニワトリ)、鴨(カモ)、鵞(ガチョウ)、「鴿(ハト)」の名前に加えて、深圳市政府が決めたそれ以外の食用可能な家禽家畜の名称も含まれているが、タイ・トラフガエルの名前は当該リストに含まれていない。
(2)広東省佛山市の三水区に所在する1軒の田鶏養殖場には48棟の養殖小屋があり、各棟の中に6万匹の田鶏がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。すでに20年近く田鶏の養殖を営んでいる経営者によれば、今回命じられた田鶏の販売禁止にはお手上げ状態だという。餌を与えなければ田鶏は飢えて全滅するし、餌を与えるにしても、いつになったら取引が可能となるか分からない。
(3)それ以上に問題なのは、これだけの大群の田鶏を養殖小屋に押し込めておくこと自体が困難だということである。養殖小屋の中の田鶏に餌を与えなければ、田鶏は飢えて「大吃小(大が小を食べる)」現象を引き起こすことになるが、現状のところでは毎日の田鶏死亡率は20%前後になっている。
中国には「国家二級重点保護野生動物」に指定されているオオサンショウウオ(中国語の俗称:娃娃魚)を食べる不埒な輩が散見されるし、「国家一級重点保護野生動物」であり、中国の国宝とされる「大熊猫(ジャイアントパンダ)」を食べた愚か者さえいるのである。
貴重な野生動物を保護する意味では、中国政府が野生動物の取引を全面的に禁止し、野生動物を食用にする陋弊(ろうへい=悪い風習)を改めようという方向性は正しいと思える。
しかし、確たる証拠もないままに新型コロナウイルスの発生源は「野味(野鳥や野獣の肉)」だと決めつけて、中国で長年行われて来た「野味」を禁じるというのは一方的過ぎるのではないだろうか。
上述したように野生動物食用養殖業界は大きな生産高を有し、600万人以上の労働者が養殖業務に従事しているのである。中国人にとって「野味」は古く続けられた伝統的な食習慣であり、ましてや今ではその多くが養殖や飼育によって供給されているのである。
養殖されたハクビシンや美味しいと言われる「竹鼠(タケネズミ)」などは、今では人間が当たり前のように食べている豚、牛、羊、馬などと何ら変わりない食用動物に思える。