脳科学者の中野信子さんの著書『毒親 毒親育ちのあなたと毒親になりたくないあなたへ』は、多くのエビデンスや実例をベースに、脳の仕組みをふまえて「毒親」「親子関係」に悩む人々への救いになる一冊だ。
その発売を記念して本書より一部抜粋掲載にてご紹介させていただく第2回は、毒親が子どもにどのような影響をもたらすのか、「家族が辛い」という状況はなぜ起こるのかをお伝えする。
愛着の傷
親との関係の中でこじれてしまったものを見つめなおそうとするとき、理性だけでは処理できないことが多いものです。愛や情や恩や、温かな何かを求めて、親に子は期待します。しかし、望んでも得られなかったり、行き違ったりして、受ける傷も深いでしょう。
受けてしまった傷の深さはどのように脳に刻まれるのでしょうか。心理学的には「愛着に傷が残る」という言い方をします。脳は、物理的に危害を加えられたり、ひどい言葉を常に投げかけられたりしていると十分に発達しないことがあります。背外側前頭前皮質が損傷を受け、キレやすく、欲望への抑制が利かなくなったり、冷静な思考がしにくくなったりします。
ギャンブルやアルコール依存症になってしまうリスクも上昇します。性的依存も一面ではこのような原因があることが指摘されています。社会通念からみれば許されないことを、そのときは判断できずに行ってしまい、歯止めが利きにくくなってしまうのです。
さらには、のちのちパートナーを持つことになったときに影響が出てしまう こともあります。適切な愛着を築くことが難しく、非常に冷淡になったり、逆に相手にしがみついたりします。
「仕事と私とどっちが大事なの?」「私が大事なら今すぐ出張先から帰ってきて」「それができないのなら今から手首を切るから」と相手を追いつめてしまうような極端な言動に走ったり、逆に自分で自分をいためつけるような行動をとってしまう。
なぜそうなるのかというと、愛情を確認する方法を知らず、相手を信頼することができないからです。その結果、相手はその関係に疲弊してしまって、結局、破綻してしまう。

健全な愛着の人であっても、離れていたらもちろん寂しくはなるでしょう。
とはいえ、すぐ帰って来いと無理を言ってみたりそうじゃなければ死ぬと取り乱したりすることはありません。「寂しいな」という気持ちを伝え、多少はわがままを言って相手を困らせることもあるかもしれませんが、健全な自尊感情をもとに、「会いたかったよ」「寂しかったよ」と伝えれば相手に十分伝わることがわかっているからです。