「ストーキング規制法を作らせた男」の場合
ケース1
リチャード・ファーリー
(1948年7月25日生まれ/サン・クエントン州立刑務所/カリフォルニア)
勤務先のOLに思いを寄せて、求愛行動はやがてストーカー行為にエスカレート。それをきっかけに会社を解雇されると、1988年に同勤務先へ複数の銃器を携えた完全武装で侵入。同社社員7名を射殺し、好意を寄せていた女性を含む4名に重症を負わせた。1992年に死刑判決。この事件はアメリカ初のストーキング規制法が制定されるきっかけにもなった。

「ファーリーにとって最大の楽しみは日曜日に房内でアツアツのエッグサンドを食べながらフットボールをテレビ観戦することでした。しかしサン・クエントン州立刑務所では死刑囚は他の囚人が利用するチャウホール(食堂)への出入りはおろか、身内の面会の際ですら自分で自動販売機に触れることも許されません。
ではなぜエッグサンドが食べられるのか。それは彼が電器ポットの中に針がねでパンを吊るして、お手製のパン焼き機にしていたから。中身に入れる具は、それまで食事として出されたオカズを保管しておいたものでしょう」
ふだん出される食事に関しては、「残飯」のようなものが多く、スパゲティにキャベツの屑が混ざっていたこともあったという。
「お金さえあれば、ポテトチップスを買うこともできますが、肉に関しては『人工肉がほとんどだ』とのことでした。面会は鉄格子に覆われた動物園のオリのような場所でしたが、『(差し入れは)何がいい?』と尋ねると、ファーリーは糖尿病であるにもかかわらず、チーズバーガーと”ダイエット”ではない普通のクラシックコーラをリクエストしました。
カリフォルニアは死刑に慎重で、控訴している限り、刑が執行されることはまずありません。執行される頃には糖尿で死んでいるだろうとタカをくくっている様子でした。彼の話で印象的だったのは、この刑務所暮らしも老後の生活設計のひとつということ。『ここは無料の老人ホーム』とまで言っていました。
つい最近の2019年のクリスマスシーズンにも、なぜか棟内の共有スペースに飾り付けされたクリスマスツリーがあったそうです。それだけならまだしも、その写真を囚人の誰かがネット上にアップしてしまった。所内では一斉に所持品検査が行われ、150台もの携帯電話が押収された。ファーリーは模範囚だったので、携帯電話は持っていませんでしたが、『検査の際にテレビのリモコンを壊された』と憤慨していました」
ファーリーは彼のストーカー行為からも分かるように、ある事にハマってしまうとそこから抜け出せなくなってしまう一面もあったようだ。パズルや暗号の解読にのめり込み、新聞に掲載された難問を解いては、こまめに答えを応募。日本円にして2000円程度の賞金を手にするのを趣味にしているという。