「本当の学力」が評価されないニッポン
冨山 リーダーシップのモデルが、高度成長期からガラリと変わっているんです。いまは大きな変革期ですから、リーダーは「自分が言ったこと」を「やってもらわない」といけない。つまり、いまのリーダーは社員への影響力が重要なんです。
しかも、人事権を振りかざす、いわゆる「ハードパワー」だけでは組織は動きません。ソフトパワーとしての人望や人間性もまたとても大切です。そのソフトパワー的なものと、合理性をどう両立させるかがポイントです。

リーダーは必要な時は合理的で冷徹な決断をできなければいけない。ただ、人望がないと「この野郎!」って恨まれて、本能寺の変で暗殺されちゃう。だから、人望も必要です。この両立ができないといまの時代のリーダー務まらない。要は組織の中でリーダーをどう育成するか、どう選ぶかが重要になってくるわけです。
小野 リーダーの育成は、高等教育とセットで考える必要がありますよね。現状では「学歴主義」というより「学校名主義」になっています。
冨山 そうですね。合格歴ですよね。濁点が違っています。「高学歴」じゃなくて「合格歴主義」(笑)。
小野 社会学者の小熊英二さんは『日本社会のしくみ』という本の中で、学歴について非常に興味深い指摘をしています。いわく、日本的経営は「学歴抑制効果」が働いている、と。
本来なら高学歴といえば、博士号や修士号を取得していることです。日本の場合、特に文系だと修士号や博士号を取得していると、逆に出世できなくなるケースすらある。ムラ社会だと修士号や博士号を持っていると「異端」に位置づけられて、「本流」から外されてしまうわけです。
欧米の場合、経営者を目指す人には必要な学位を求めますよね。修士号とか博士号です。そこで培われた知識やスキルが、仕事に必要だと考えられているからです。東大卒や京大卒という学校歴、合格歴が求められることはありません。
一方で、日本の終身雇用、年功序列だと、まずはムラ社会のメンバーに入ることが重要。経営陣を目指す人も、みな現場のオペレーショナルな業務から入って、少しずつステップアップしていくしか道がない。