家族に感染の疑いが…
ロックダウン生活では、実際に社会全体で起きていることは、まるで遠くの国の出来事であるかのようにネットやラジオ、テレビ画面を通して得るものばかり。だからなのか、どこか一連のことが「バーチャル」なものにとどまっていた。すでに2万人近くが新型コロナウイルスで亡くなっており、もちろんこの異様さは頭では理解している。一方で、頭で理解していることに体がついていっていない感覚があったのも事実だ。
そんなある日。「ちょっと体がだるい、閉じ込められているからだろうか」と夫が言い出した。ちょっと微熱もあるかも、と。それから数日間は仕事をしつつもよく寝るし、頭も痛いらしく、数日間は疲れがたまると言い続けた。

それでも私たちは「病は気からって言うよね」と、特にいつも以上に焦りもなかったし、まさかコロナと真剣に結び付けたりもしなかった。ところが、もうだるさもなくなったよ、と言っていた翌日あたり。ワインが変な味だとドキリとすることを言った。夫は匂いがまったくしなくなっていた。
嗅覚を失ったら新型コロナウイルスにかかっている疑いがあるということは割と知られていので、ようやく、これはそうなのかもしれないという話になった。苦いものがこみ上げるような感覚のなか、さっそく翌日にかかりつけ医のテレビ診察を受けたところ、「おそらくそうでしょう」と告げられた。
コロナウイルスが身体的にリアルになった瞬間だった。自分の家の中で感染が起きていたのだ。ようやく画面を通して見ていた世界がリアルの世界と結びついた。
でも、入院をしなければいけない人や明らかに重症化している人でなければ検査は受けられない。だから今後も夫が、あるいは家族の誰かが感染したかどうかは分からずじまいだ。周りにも、風邪気味だった、とか、ちょっときついインフルエンザのような症状が続いた、という友人たちが割と多いことに気づく。
それでも特に呼吸困難に陥ったりしなければ、解熱剤でなんとかするしかなく、検査もされない。私の周りで検査を受けた人はたった一人。遠くの知り合いで陽性だった人はいるけれど、身近にはまだいない。