岡嶋 ITのしくみがこれだけ世の中に行き渡ると、否応なくインフラ化します。自分の周りを取り囲んでるものの仕組みがわからない、ブラックボックスになっているのは怖いです。そこに対して拒絶反応が出てくるのはある意味で自然なことです。
ブラックボックスを解体していくような本を書き、教育をしていくことは、もう15年以上取り組んでいる自分のテーマです。
たとえば最近では、『絵でわかるネットワーク』という書籍を上梓させていただきました。この本は、初歩の初歩からネットワークのしくみについて書いた本です。IT以前に、「インターネットがどうつながっているのか」もブラックボックスなひとって、案外多いと思うんです。
中村 そうですよね。知らなくても動いてるけれど、騙されると大変なことになっちゃうとか、炎上するっていうのは、根本的なことを知ってたら防げますからね。
今回の書籍のように、リテラシーとしてネットワークの基礎を知っておくのは必須だと思います。小学校でプログラミングを必修にしたことはまだいまだ議論がありますけど、僕はもう当然のことなんだと思います。

岡嶋 プログラミングのテクニック的なことが将来自分の職業に直結しなくても、プログラミングを通して論理的思考の訓練ができるのは重要ですよね。
また、プログラムが書ければ、問題解決に自分で関われるようになります。プログラミングは自分の思考の可視化ですから、怖いことでもあるけれど、楽しいですよね。
僕は学校の授業って人生のチュートリアルだと思うんです。法律や経済なんて何の役に立つんだ、って僕も学生時代に思っていましたけど、法治国家は法律をベースに動いていて、仕組みを知らないと大損をしたりすることがあります。経済も人間関係もそうでしょう。
ゲームでチュートリアルをやらずに中ボスに突っ込んでいって死んだらみんな笑うのに、大学っていうチュートリアルはおろそかにしがちなのでもったいないなあと感じます。
僕らがもっと魅力的な授業を提供するのはもちろんですが、学生さんにそこを知ってもらう必要がありますよね。
中村 難しいですよね。社会に出てから、大学で得た知識が役に立ったと思えるまでにはかなり時間がかかりますし。
そういうこともあって、僕の大学では、できるだけプロジェクトベースにしようと思っています。産学連携でプロジェクトをやるためには契約の知識がいるよねとか、法律の知識いるよねとか。統計学やってないとこれ実証できないよね、っていうところから逆算で勉強するとか。これからの取り組みですけどね。
2年の間に情報と経営、英語でもできるようにする。これが3つの柱です。そして、3年生になったところで全員インターンです。インターンは約半年。
岡嶋 それは気合いの入ったインターンですね。米国並みですね。
中村 ガッツリ外で鍛えてもらいます。本物のインターンですね。このインターン先をきちんと整えるのが一番ハードでした。戻ってきてから4年生にかけては、実際にビジネスプランを立てて、起業すると。

目指すは「就職率ゼロ」の大学!
岡嶋 先生ご自身はどんな授業を持たれるんですか?
中村 僕は最初の最初に、イノベーションの志をお話しします。こんなすごいやつらがいるぞ、いいものを作るってこういうことだぞって紹介する。
でも決して、スティーブ・ジョブズやザッカーバーグじゃなくていいんです。そんなに大層なことを考えなくてもいいよね、と。