寮に戻って、ふて寝していたら、朝、当時、引退されてスカウトになっていた、のちの近鉄の監督・佐々木恭介さんが、部屋まで来てくれまして、「どうやった?」と声をかけてくれました。
「いやあ、ボールが浮き上がってきました!」と答えると、「いや、浮き上がることはないんや」と言いながら、「あの長嶋茂雄さんもデビュー戦は金田正一さんから4三振や。気にするな。頑張れ」と励ましていただいて、感激したことを、今、思い出しました。
ただ、そのあとすぐ思いました。
「いや、でも…、長嶋さんは大卒やな…」と。それに、「長嶋さんは、金田さんの球をフルスイングして全部空振り三振だったけど、僕は見逃し三振ばっかりやったな。全然内容が違う」と。
長嶋さんとは全然違いました。振れなかった。タイミングがとれないからフルスイングもできない。
そのあと、風呂に入って、当時の打撃コーチに…名前は伏せておきましょう。巻き舌で話す、昔、西鉄におられた方です。
そのコーチに、「どないやってぇん?」って聞かれて、「いやあ、ボール浮いてきましたわ」って答えたら、いきなり頭はたかれて、「上手投げがボール浮くわけあるけぇ」と言われました。
バチーン殴られたあと、「昔やったら殴り返したのに」と思いましたけど、殴り返せるような雰囲気じゃないパンチパーマのバッティングコーチでした。

右なら江川さん、左なら江夏さん
対戦したかどうかを別にすれば、僕が57歳になる今日までプロ野球に携わってきて、肉眼で見た中でのナンバーワンのピッチャーは、右では江川卓さん、左では江夏豊さんかな。
過去のアーカイブの画像で、江夏さんのオールスターでの9連続奪三振なんかを見てると、バッターはど真ん中と思って振りに行ってるのに、ボールは顔の高さに来てますからね。
江川さんの球速だって、当時のスピードガンでは136キロとか表示されてるけど、それはありえない。今のスピードガンだったら間違いなく157~158キロは出てるはずですよ。
お二方とも同じような投げ方。柔らかくて手の平がバッター方向からずっと見えている。ということは、リリースの瞬間にカッとかくんじゃなくて、腕全体をムチのように使ってるんですよ。
だから、スピン量が他のピッチャーの何倍も多い。常識的にはボールが浮き上がってくるなんてことないんですよ。引力があるんで落ちるんです。でも、お二方の投げるストレートは、バッターの目線では浮き上がってくるように見える。
「ど真ん中や!」と思って振ると、ボールはその遥か上を通るんですよ、江川さんも江夏さんも。これ昔のアーカイブを観てみてください。