医療体制
日本の医療体制の特徴は、一言で言えば、質の高い体制という長所と、量の不足という短所であろう。
質の高い医療は、重症患者に可能な限り十分な対応をすることによって、死亡者数の抑え込みに大きく貢献していると思われる。しかし、新型コロナの感染の拡大にともなって、ICU病床不足や人工呼吸器不足が、早期の医療崩壊を招くことが恐れられた。これが4月7日の緊急事態宣言の直接の要因となった。
なぜ質は高いのに量は不足しているのか、と言えば、最近の日本が大きな感染症の脅威にされされたことがなかったからである。台湾や韓国の準備が優れているのは、SARSの脅威に直接的にさらされたため、「次の」感染症に対応するための準備を本気で行っていたからだ。
したがって量的不足は、政府の陰謀や医療関係者の怠慢というよりも、これまでの感染症対応体制充実に対する政策的優先度の問題の帰結として発生している。
この量的不足は、「日本モデル」の最大の論争点である、PCR検査数の少なさにも大きく関わる。そもそもPCR検査を大量に行う準備が日本にはなかったし、今もあまりない、という事実が、まず存在している。これは必要品の問題でもあるし、専門的な職員の数の問題でもある。
ただしもっと強い政策的意思が、医療関係者の内部にも働けば、感染リスクを引き受ける学生を動員してでも、もう少し簡易検査体制を作っていくことはできた、とは言えるのだろう。
それに対して、そんなリスクを冒して、確度の低い見なし陽性者を大量生産しても、医療体制側が対応できないので医療崩壊を引き起こすだけだ、という考え方が根強く存在することも確かであろう。
決して検査は常に少ない方がいい、ということではないのだが、現有の戦力を考えたら、いたずらな検査数の拡大は危険だ、という自らの不足点を冷静に見極める視点があり、その結果として、ベストではないが現実的な策としての「日本的なやり方」が運営されてきた。