緊急事態宣言延長で問われる「日本モデル」その強みと弱み 

日本の対策のこれまでとこれから
篠田 英朗 プロフィール

国民行動の変容

「日本モデル」の最も神秘的な部分が、国民の行動形態だ。

もともと衛生レベルの高い社会インフラを基盤として、手洗いの習慣、家庭内で靴を脱ぐ習慣、電車内などで会話を控える習慣、他人のためにマスクを着用し続けることを推奨する習慣などが、コロナ対策として、意識化されてきた。

ただし、それらが実際にどれくらいの効果を持ってきたのかは、予防行動であるだけに、測定不可能である。

感染者の重症化率と、糖尿病等の基礎疾患の持病率に相関性があることは判明してきており、日本人の基礎疾患が欧米諸国よりも良好であることが重症化の抑制につながっていることもほぼ確かだが、ではどれくらいかと言われれば、これも数値的な検証は簡単ではない。

さらに一層神秘的だったのは、手ぬるすぎると言われて海外から酷評された強制力なき緊急事態宣言で、ほとんどの国民が自粛の努力を続け、新規感染者数の減少という成果も出してきたことだ。為政者が酷評されながら、国民がその必要性を認識して、自発的な努力で協力を惜しんでいないのは、「日本モデル」の象徴の一つだ。

 

もっと強制力や補償を導入すべきだ、という意見も根強い。だが自発的な努力だからこそ、実質の伴った変容が起こり、欧米諸国が達成できていないレベルの劇的な減少が可能になった、と考えることもできる。強制力には反発が伴うし、補償にはタダ乗りが伴い、少なくともほとんどの欧米諸国は、日本よりも残念な成果しか出せていない。

ただし、これはつまり、多大な負担を国民が自発的に引き受けていることを意味するので、国民の疲弊を軽視すると、長続きしない。調子に乗った政治家や専門家が、もっと自粛せよ、などといったことを軽々しく言えば、焦燥感にかられた者から次々と意欲を失って、自粛体制から離脱していくことは必至である。

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