コロナ不安で「権威に従い、他人を叩きたがる人」が増えた深い理由

進化心理学から説明する「体制順応主義」
Ore Chang プロフィール

人類学のバックグラウンドを持ち、進化の観点から人間の行動を研究しているロンドン大学の公衆衛生学者ヴァレリー・カーティスは、「公衆衛生ルールを破ること」が、人類にとって最もプリミティブな “犯罪” の認識カテゴリに当てはまる行為だったかもしれないと主張する。*13

彼女は、きわめて古い遺跡からも櫛・公衆便所・ゴミ捨て場といった人工物が出土することを例にあげ、人類はかなり初期から、ゴミの処理を怠ったり、好き勝手な所に排便したり、公共の場で唾を吐いたり、髪の毛についたシラミを櫛でとかして落とさなかったりする仲間を軽蔑していたのではないか、と考えている。衛生マナーを守らないことは、人類にとって最古の「罪」であったかもしれないということだ。

伝染病の脅威に対処する上では、自分一人だけが衛生マナーを実行しても効果がない。他の人間も、そのマナーに従わせる必要がある。規範的な違反(=normative transgressions)は、違反者自身を危険にさらすだけでなく、周辺住民の感染リスクを増大させる可能性が高い。

体制順応主義はここに産声を上げる。

──理由やメカニズムを理解する必要はない。よそ者や社会不適合者を迫害し排除すれば疫病は治まる。神が定めた宗教的戒律を守らない者を処刑すれば疫病は治まる。黒死病(ペスト)が猛威を振るった中世から近世のヨーロッパで、魔女狩りが同時進行したのは偶然ではない。

 

「監視者」を引き受ける市民たち

いま、世界中の人々の脳に感染症の脅威が “プライミング” されることによって、知らず知らずのうちに体制順応主義が昂りを見せている。

〈「法に従え!」外出禁止中の南アフリカで警察官がゴム弾発砲〉
〈ベキ・ツェレ警察大臣は「やってはいけないと言われたことを守らない市民がいる。我々が闘っているのは市民ではなく、新型コロナウイルスだ。法を守らない者は敵とみなし、人々を守るために厳しく取り締まる」と語っている〉

──取締りを強化しているのは為政者だけではない。ボランティアでドローンを操作し、呼びかける人まで出てきた。いまや市民一人一人がウォッチメン(監視者)となっているのだ。

ロックダウンが発動され、外出禁止令が敷かれている欧米諸国では、ルールを監視・管理する政治的権力が急速に強化されている。

その背景には、もちろん人々の支持がある。フランスのマクロン大統領は3月半ばに「集会の禁止」措置を講じたが、*14 2月の終わりまでパリで大規模デモが起こっていたことを考えると、それがすんなりと受け入れられるというのは、わずか半月で市民意識の驚くべき変化が生じているということになる。

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