コロナ薬「アビガンの安全性・効果のデータはそろっている」は本当か

治験が必要である理由
原田 隆之 プロフィール

アビガンに期待するのは理解できるし、それは私も同じである。新型コロナ感染症に対して、特効薬の出現を願うのは全世界の人々共通の気持ちである。しかし、その気持ちがはやるあまり、安全性をないがしろにしてよいわけがない。

高名な医学者である山中教授は、むしろ拙速になりがちな一般の人々やマスメディアの声を抑制する役割が期待される立場であるのに、残念ながらまったく逆の非科学的な主張に終始していたと言わざるをえない。

まして、政治によって科学研究を左右することを期待したり、安全な医療よりもオリンピックの実現を望んだりしているかのような発言は、きわめて問題である。

観察研究とは

これまで、アビガンに対しては、わが国ではいくつかの症例報告や観察研究があるのみである。海外に目を向けても、査読前の1件のランダム化比較試験といくつかの観察研究しかない。これは、有効性や安全性のエビデンスとしては、きわめて貧弱である。何をもって山中先生が「データが相当そろっている」と発言したのか、まったく不可解である。

山中教授の発言に対しては、専門家を中心に多くの疑問や批判が上がっているが、それらを見ても、なぜ観察研究では不十分であるかということの説明がほとんどなされていないので、ここで簡単に説明したい。

まず、観察研究というのはどのような研究かを説明する。これは、研究参加者(患者)に対して、評価対象の薬を投与し、その前後での症状の変化を観察するものである。前後比較研究とも呼ばれる。そして、介入後に症状が改善していたら、介入(薬)が効いたと評価するわけである。

 

果たしてこれでよいのであろうか? 単純に考えると、薬を飲んだ後に良くなったのであれば、薬が効いたと考えてよいように思える。

しかし、ことはそう単純ではない。われわれ人間は、とかく目立った事象だけに着目しがちで、そこに因果関係を想定してしまうという認知のエラーを抱えており、これを関連性の錯誤という。上の例でいうと、「薬を飲んだこと」「症状が改善されたこと」、この2つにばかり着目しているので、2つに因果関係があると思ってしまう。

関連記事