在宅勤務は生産性向上になるか
「通勤時間がなくなった」ことを、ちょうど100人の回答者(30%)が「良かったこと」にあげている。2時間から3時間の時間的余裕ができたのは大きい。その余裕はもちろん家事育児だけに費やされているのではない。
図3の「生活習慣」という項目にカウントした回答には、「朝ゆっくり眠れる」といった「睡眠時間確保」派と、散歩、ジョギング、読書、映画鑑賞、勉強などに精出す「自由時間」派が見いだせる。「通勤時間の分働ける」「終電を気にせず働ける」(!)という「仕事」派も一部にいらっしゃるが。
「良かったこと」として「仕事関係」をあげた人も44人いる。「無駄な会議がなくなり、大事な仕事に集中できる」「無駄がなくなる、仕事が合理的になる」「自分のやるべき仕事に集中できる」「自分のペースで仕事ができる」「会社にいるといろんな仕事が降ってきたりするが、それがない」「さまざまな手続きが簡略化・効率化するきかっけとなった」と並べると、オフィスではいかに無駄だと思うことをさせられてきたか、いまさらながら意識させられる。そんなことのために家族との夕食をずっと犠牲にしてきたのかと。在宅勤務は日本の課題とされる生産性向上への突破口かもしれない。

しかし、「困ったこと」として「仕事関係」をあげた人は、はるかに多い137人だった。内容を細分すると、「部屋が狭く、家族を外に追い出さなくてはならない」「家で仕事する場所がリビング」「リビングの机をとられ、私が仕事をするスペースがなくなった」「オンライン会議のスペースがない」「別々の独立した部屋がない」などの「自宅の仕事環境」が42人、「子供がいるので静かに勤務できない」「リビングで仕事をしているのでテレビが見られない」「夫婦共に在宅日はテレビ会議時間にお互い気を使う」などの「仕事と家族のかね合い」も42人で、1位タイだ。
続いて「オフィスに比べて集中しづらい」「オンオフの切替がむずかしい」などの「モーティベーションの維持」の難しさをあげたのが39人だった。「パワハラ気質な上司が家の中にオンラインで介入してきた感じがしてこわい」という回答からは、精神的ストレスも危惧される。
このほか仕事関係の「コミュニケーション」の難しさを27人、「通信環境・情報管理」の問題を21人、「印鑑・郵送物・紙の資料」などの技術的な制約を15人が指摘している。これらの要因が複合した結果であろうが、20人が「仕事が進まない/はかどらない」「仕事の効率が悪い」といった表現を用いている。在宅勤務を生産性向上につなげるには、まだハードルがいくつもあるようだ。
在宅勤務でも「モーティベーション」を維持して「コミュニケーション」をはかるような職場管理の方法は各企業が取り組まねばならない喫緊の課題である。自宅の「通信環境」整備のための費用の会社および国からの支援は始まっているが、より充実させる必要がある。印鑑や紙の使用は無くしてもらうしかない。
となると残るのは「仕事と家族のかね合い」で困らないような「自宅の仕事環境」整備だろう。日本の住宅はヨーロッパや北米のみならず豊かになったアジア諸国の多くと比べても狭くて条件が悪いので、世界のトレンドとなったテレワークについてゆくにはそれが思わぬネックになっている。
「別々の独立した部屋」をすぐに持つのは難しいだろうが、住宅の中に小さくても個人のスペースを作ることが、「家族を幸せにする」在宅勤務を「新しい生活様式」にするための条件だろう。感染状況が改善したら、ネットカフェをテレワークに使う、一般の喫茶店もデフォルトでWi-Fi完備にするという海外でよくあるような方向もいいだろう。
未来の働き方は未来の暮らし方でもある。会社だけでなく家族も変わり、仕事と生活がうまく組み合わさり、その両方に女性も男性もちょうどいいくらい時間と手間をかけられる新しい社会の仕組みを生み出してゆきたい。
(了)
鈴木七海(お茶の水女子大学大学院生、Genesis共同代表)