構成・イラスト/田中ひろみ
火の玉ってなんだべ?
私は小学5年生のころから科学者になることが夢だった。そのころの夏、ひとり、宮城県角田町の故郷にあった五右衛門風呂で、外の柿の木の中ほどに、「火の玉」(*)を観たからだった。
「火の玉ってなんだべ?」とオトナに聞いてまわったが、だれもまともに答えてはくれなかった。
通っていた小田小学校に中村という先生がいた。この先生だけは私の疑問をバカにせず、まともに相手になってくれた。
熱心にメモをとってくれただけでなく、くだんの柿の木まで一緒に行ってくれた。その後、中村先生はバスで1時間半もかかる東北大にも行ってくれた。

そこで物理学や天文学などの専門家を訪ね、「火の玉」について聞いてくれたのだった。しかし、それらの専門家のだれも、ただの一人もまともに話にのってくれなかったという。
そこで中村先生は東北大学法学部近くに並ぶ本屋、古本屋に立ち寄り、「火の玉」の本を探してくれたそうだ。しかしそのような本はなかった、といった。
「仕方がないから、この本を買ってきてやったよ。多少は火の玉に関係あるかもしれないよ」
その本は今でも手元に残っている。『光の話』という本だった。私はこれをむさぼるように読んだ。2回、3回、5回、10回……そこには、不思議な記号も書かれていた。たとえば、√など。そこで私は中学数学の勉強まで始めた。
そのころから私は当然のことのように、将来科学者になることを決意したのだった。何しろ、当時としては神様のような偉大な東北大学の科学者たちも知らないことがあるのだ。
しめた! これならオレ(東北弁)だって勉強、研究すれば東北大の科学者を超えることができるぞ!
*火の玉の正体はプラズマである。1990年に私が、電磁波で火の玉を作ることに世界で初めて成功した。
神様、なぜ地球は動いているのですか?
密かに科学者を目指す少年は角田中学校に入学した。理科の先生は太田先生。地球が太陽のまわりをまわっているという話をされた。

「地球は、何十億年もまわり続けているのだ」
と。そこで私はすぐ手を挙げた。
「先生それ不思議だ、そんなに長くまわり続けるなんて……何でだべ?」
「バカ、そんなこと先生だってわかるものか、神様にでも聞け!」
これは困ったぞ……神様となってはお手上げだ。何故なら神様、仏様は口をきかないではないか!
口もきかないものにどうやって教えてもらうか?
角田中学のすぐ側に八幡神社があったので、数日後、親友とこの神社に行って、
「神様、なぜ地球は何十億年も動いているのですか?」
と訊いてみた。
……なんの答えもなし。代わりにカラスが、バカー、バカーと答えた。