出席者が誰かがわかればよい?
そこで、通常の文書の作成義務の範囲が何かが問題になるのだが、それは明確だ。
ガイドラインは、審議会等や懇談会等について議事録の作成を義務付けている。この「懇談会等」に専門家会議が該当する。そのため、歴史的緊急事態か否かはまったく関係なく、専門家会議を開催する以上は、発言者名と発言内容を記録した議事録を作成しなければならない義務を政府は負っている。
そして、専門家会議が「懇談会等」に該当することは、事務局である内閣官房自身がすでに認めている(2020年5月14日中日新聞朝刊「専門家会議議事録作らず」)。しかし、記事によると、内閣官房は取材に対し、「誰が何を言ったかなどの発言者と発言内容を紐づけることまで求めていない」と回答したという。また、6月1日の記者会見で菅内閣官房長官も同様のことを述べている。
要は、議事録に記載すべき発言内容と発言者名とは、誰の発言かを記録するのではなく、出席者が誰かがわかればよいという解釈をしているようである。そのため、内閣官房の説明だと、現在公表されている専門家会議の議事概要が、ガイドラインの定める議事録に該当すると主張しているようだ。
これは、ガイドラインの曲解にほかならない。ガイドラインは議事録として、発言者名と発言内容とは別に出席者を記録することも求めているからだ。出席者と発言者名をわけて書いているのだから、出席者名だけが記載されている議事概要は、議事録には当たらないことは明らかだ。
内閣官房の解釈は、自己都合で恣意的に曲解している。専門家会議の議事録をここまでルールを曲解して正当化しようとする姿勢には、内閣官房の新型コロナ対策そのものが自己都合でどうにでも曲解できるような進め方をしているのではないかという疑問を持たざるを得ない。
そして大変奇妙なのが、この曲解した解釈論は6月1日の菅官房長官会見まで開陳されなかったということだ。それまで繰り返し主張してきたのが、専門家会議が政策決定・了解を行う会議ではないので議事録作成義務がなく、ガイドラインに沿って適切に対応しているという認識だ。
これだと、議事録の作成が義務づけられている会議である専門家会議について、歴史的緊急事態に当たるとその義務がなくなってしまう。
その理由が、政策決定・了解を行わない会議だからということになるので、歴史的緊急事態と指定したことによって、政府は文書の作成義務の範囲が狭まる解釈を行い、それを実行きたことになるのだ。
繰り返しになるが、あくまでも歴史的緊急事態への指定は、通常の文書の作成義務等に上乗せして、通常は作成が義務付けられていない記録の作成を求める趣旨であって、通常から義務付けられていることをしなくてよい、というものではない。かなり本末転倒な状況になっている。