2020.06.05
# 鉄道 # 新型コロナウイルス

それでも日本人が「通勤地獄」から抜け出せない残念な理由

鉄道が変わるだけでは足りない
野田 隆 プロフィール

「ゆったり座って通勤したい」人の増加

とはいえ、通勤を取り巻く環境を見ると、悲観的な話だけではないようだ。新型コロナに関わらず、「ゆったり座って通勤したい」というニーズは少しづつ、しかし確実に通勤客へ浸透していると筆者は考えている。

少し歴史を遡ると国鉄末期、特急列車の回送を利用し、ホームライナーを走らせて増収を図ったところ、大好評。これが「ゆったり座って通勤したい」というニーズの開拓となった。そうして大都市の近郊区間でホームライナーが盛況となると、私鉄でもロマンスカーを観光目的一辺倒から通勤利用にも開放、人気を集める。

ひとつには、特急列車は、「特別」急行列車という“ステイタス(特別感)”がなくなり、通勤で利用しても違和感がなくなったことも影響している。また、行楽の移動手段が鉄道一辺倒からマイカーや観光バスにも広がり、観光特急列車の乗客が減り始めたことも、通勤客の利用を促すことにも拍車をかけた。

通勤にも利用される小田急ロマンスカー
 

こうしたワンランク上の車両で通勤することは、JRの普通列車グリーン車運転区間の拡大にも見て取れる。

かつて、国鉄の普通列車用グリーン車は富裕層の多い、湘南電車(東海道線東京~熱海)と横須賀線に限られていた。しかし、横須賀線と総武快速線が直通運転を開始して、千葉エリアにもグリーン車が走り始めたところ、当初の予想を裏切り、グリーン利用客が順調に伸びていったのだ。このため、「痛勤」を忌避する人が湘南地区以外でも大勢いることが分かり、以後、北関東エリアにもグリーン車連結列車は広がっていく。

通勤客の高齢化も影響しているかもしれないが、少なくとも通勤に追加料金を払うことに抵抗を示さない人が増えたことは、こうした流れからも読み取れる。私鉄各社の座席指定通勤ライナーの人気も相まって、今後も「ゆったり座って通勤したい」という人の増加を期待したいところだ。

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