デモや暴動が報じられているアメリカでの警官による黒人男性殺害事件。NY在住のライター黒部エリさんによる緊急寄稿として、黒人差別の歴史の一部を紹介する。私たちが履いているナイキのスニーカーも、差別問題に巻き込まれ、焼かれたことがあったことを覚えている人も多いだろう――。

 

 「黒人の命も大切だ」のスローガン

アメリカが、人種差別に抗議するデモで大揺れに揺れている。
2020年5月25日、黒人男性がミネアポリスで警官に拘束されている最中に、警官に頸部を膝で押されて窒息死した事件がきっかけとなり、「Black Lives Matter」(黒人の命も大切だ)をスローガンに抗議運動が勃発。
ミネアポリスからロス、NY、ワシントンDCと全米で抗議運動が広がっている。

6月2日、ワシントンで行われた抗議デモ。みな静かに抗議をしている Photo by Getty Images

NY市では、騒ぎに乗じた略奪者たちに店舗が襲われ、ソーホーの店舗はことごとく破壊略奪されて、銀行のATMも襲われた。
この非常事態を受けて、NY市では現在夜8時から朝5時までに外出禁止例が出されているが、これは75年ぶりの事態だ。
マンハッタンでは、店舗が板張りのバリケードで自衛をしている。5番街の一流店がことごとくベニア板でおおわれているのを目にすると、これがNYかと悲しい思いになる。

2020年6月2日のNY5番街。新型コロナで人が通らない風景に続き、見たことのないようなNYの風景が続く Photo by Getty Images

6月3日付けで、ジョージ・フロイド氏を死亡させたショーヴィン元警官は、第三級から第二級殺人として追訴。また現場にいた他の三人の元警官たちも告発された。
だが、実際に裁判となって、彼らが有罪とされるかはわからない。警官を守る法律は堅固にできている。
今回のプロテストは、アメリカの警察制度と刑事司法制度を長年にわたって改革してこなかったことの結果であるといえるだろう。

今や「ブラックライヴス・マター」の抗議デモは世界に広がりつつあり、イギリス、ドイツ、フランス、デンマーク、イタリー、シリア、ブラジル、メキシコ、アイルランド、ニュージーランド、カナダ、ポーランド、オーストラリアといったように多くの国でも抗議が行われている。

一方、日本では今ひとつピンと来ていない人も多いのではなかろうか。なぜ警察による傷害致死に、これほど世界が動いているのかと。
この「ブラックライヴス・マター」問題は、長年にわたる根深い問題がある。