放牧は感染リスクが高いのか?
豚が日光を浴びたり、泥遊びをしたり、自由に動いて健康に育つ放牧養豚――。動物の心身の幸福を育むアニマルウェルフェア(AW)を重視する国際潮流の中で産業価値も高まっているが、その放牧養豚が今消されようとしている。
国が豚コレラ(CSF)、アフリカ豚熱(ASF)など家畜伝染病拡大防止を理由に、指定する地域での放牧を中止させようとしているのだ。
法施行直前になって放牧中止の件を知らされた生産者は「消費者に良質な食品を届けるため、長年工夫して放牧を営んできた。ワクチン接種も二重柵もしており、放牧のほうが畜舎飼いより感染リスクが高いという科学的根拠はない。理不尽だ」と抗議している。

2018年9月に岐阜県で26年ぶりにCSFが発生して以降、発生件数は58例に上る。農林水産省は20年4月改正の家畜伝染病予防法に基づき、衛生管理の強化策などを盛り込んだ産業動物の飼養衛生管理基準を改正する予定だ。
牛、鹿、羊の基準では、口蹄疫などが発生して放牧中止指示が出る場合に備えて畜舎を用意したり、動物を移動させたりする「放牧制限の準備」などが入った。
特に問題となるのは豚の基準で、野生イノシシでCSFウイルス陽性が確認された地域とその隣を含む「大臣指定地域」における放牧場、パドックでの放牧中止だ。
農場は21年4月までに全頭を収容できる畜舎を用意することを迫られる見通し。基準案は、パブリックコメント(6月11日まで)を経て7月1日(一部除く)に施行される。
農水省は「畜舎を持っていない農家は施設を建てるか、放牧をやめるか、ということになります。具体的なルールは今協議中」(古庄宏忠動物衛生課長補佐)という。ただし、千万単位でかかる畜舎建設の補助金は一切出ない。