大臣指定地域に該当するのは、兵庫、京都、愛知、東京、長野、山梨、新潟など24都府県。石川清康動物衛生課長は放牧中止措置について、「カラス、野鳥などがウイルスを運ぶ可能性があり、放牧にはそのリスクがあります。ワクチン接種をしても、抗体ができるのは8割に限られる。アニマルウェルフェアは否定しませんが、病気の観点から考える必要もある。日本の養豚業を守るためです」などと述べた。
一方で、放牧が舎飼いより感染リスクがより高いとする根拠については「科学的、定量的に示したものはない」(山野淳一家畜防疫対策室長)と科学データがないことも認めている。
一般社団法人日本養豚協会(東京都、会員数1525人)の香川雅彦会長に取材を申し込んだところ、「指定区域の放牧などの飼養実態を把握していないため、組織の責任者としての回答は難しい。豚熱から農場を守るためには必要な措置だと思っています」とのコメントが返ってきた。
放牧養豚が消滅する恐れ
動物行動学者で獣医師の入交眞巳さんは「放牧豚のほうが畜舎飼いの豚より免疫力は高く、獣医師にかかるコストも低くなることは、北里大学や英国の論文で明らかになっています」と語る。
その上で、「ASFが国内で発生したときに備え、豚舎を用意しておくことは必要だと思います。ただし、生産者に放牧中止令を出すなら、なぜその地域で放牧できないのか、屋外に戻す条件、再開時期を生産者に説明するべきでしょう」とする。
とはいえ、農水省は「野生イノシシの感染地域は1年間で東方へ200キロ、西方へ60キロ程度拡大して広がる傾向にある」と分析している。
1887年に出たCSFが1969年に開発されたワクチン接種で激減し、発生が最終確認されたのが92年、OIE(国際獣疫事務局)にCSF清浄国の報告をしたのが2007年。ワクチン接種開始から清浄国「宣言」まで約40年かかった。
農水省は基準改正による放牧中止期間を「野生イノシシのウイルスが消えただろうと認識したとき。短期間で終息するものではない」(古庄動物衛生課長補佐)としており、その間に放牧養豚は消滅してしまうのではないか。