国は生産者の声を無視…コロナ危機のウラで突然「放牧消滅」の可能性

「科学的根拠はない。理不尽」と抗議も
森 映子 プロフィール

私が以前、中嶋さんの農場を尋ねたときは、子豚は母親についてちょこちょこ走り回ったり、母豚同士が小屋の木陰で昼寝をしたり、肥育豚は群れで泥遊びしたり、雑草を食べたりと、その愛らしく活発な様子に感動した。

中嶋千里さん(中央)の農場。放牧豚は群れで仲良く雑草を食べたり、自由に過ごしている

中嶋さんは5月中旬、家畜衛生保健所を通じて放牧中止の件を知った。

「寝耳に水。私の農場は、2000平方メートルの土地に約200頭がのびのびと過ごしている。寄生虫が発生しないように注意し、CSFワクチン接種も済んだ。農場には金網と電気柵と二重柵をしており、『放牧豚は感染リスクが高い』とする農水省の主張は偏見。一方的に放牧はだめだよ、と命令して、畜舎建設のコストは生産者がすべて負うのはおかしい。飼料も食品廃棄物を天日干しして循環型農業をしてきた。数少ない放牧を危険視するのではなく、参考事例として保護してほしい」と訴える。

 

鹿児島県伊佐市で「沖田黒豚牧場」を経営する沖田健治さんも危機感を募らせている。

「農場は11ヘクタールに200頭。生後4ヵ月以降、4~5ヵ月間は外で過ごします。豚は土を掘って食べることでミネラルを取り込み、野生の豚のように走るのも早い。母豚も足腰が鍛えられ、放牧は欠かせません。ストレスなく育つので、脂身もさっぱりとした甘みで、口の中でとろけるおいしい肉ができます。経営するレストランでは、お客さんが放牧場を見ながら料理を食べるスタイル。放牧できなくなれば商売の売りがなくなってしまう」

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