「APU起業部」を創設した理由
APUに赴任してから、まず人に会わないと大学のことがわからないということで、「執務室のドアは常に開いているからいつでも誰でも来ていいですよ」という話を伝えていたところ、最初の1年間で200組近くの学生が訪ねてくれました。
2年目は300〜400組のペースで学生が遊びに来てくれます。ちなみに執務室には学生の保護者や地元市民、APUの教職員も相談に訪れてくれます。
学生たちは何を目的にやってくるかというと、多いのは留学相談や休学相談、卒業後の進路相談です。これらは十分想定がつきましたが、予想外に多かったのが「起業相談」でした。全体の2割くらいは起業に関する相談でした。
これだけ学生の起業意欲が高いのであれば、大学が応援するのが責務です。そこで2018年7月に「APU起業部」を創設しました。
起業部ではまず入部を希望する学生に起業プランを提出させます。そのなかから実際に起業の見込みがあるものを選択し、指導していきます。
応募総数は71組90名で、そこから32組46名を第1期生として選ぶ一方、有志の教職員7名をそれぞれの組にメンターとして割り振りました。
僕は起業でもっとも大切なのはロールモデルの存在だと考えています。「スティーブ・ジョブズを見よ」「孫正義に学べ」といったところで、特別な存在すぎて学生の役には立ちません。
そうではなく、実際に役に立つのはすぐ隣にいるお兄さんお姉さんなのです。そこでAPUの卒業生で起業している人にも協力してもらい、学生に話をしてもらったり相談に乗ってもらう仕組みにしました。
要するに、見込みのある起業プランに対し、教職員や卒業生の起業家にハンズオンで個別指導してもらい、学生たちを引っ張り上げていくのが起業部の役割です。
早くも出ている成果
創設から1年の段階で、晴れて4組が起業を達成しました。一つはバングラデシュ出身
の学生が代表を務める革製品の製造・販売事業です。
バングラデシュはイスラム圏のため豚を食べず、肉は主に牛を食べます。ところが牛の皮は川やごみ処理場に廃棄され、悪臭や水質汚染などの環境問題を起こす原因になっているそうです。
そこで膨大に捨てられている牛の皮を革製品に加工して販売しようというのが彼らの事業です。すでにバングラデシュの女性たちがつくった財布やペンケースが商品化され、APUの生協で販売されています。
この事業は、商品生産と販売を通じて現地の女性たちの地位向上や、子供たちの識字率向上をも目指していて、日本で商品が一つ売れたら、一冊の本がバングラデシュの子供たちに贈られます。
他にも尾道出身の学生たちが地元尾道で国産アーモンドの生産、商品開発で地域の活性化を目指して起業したり、スリランカ出身の学生が卒業と同時に別府市内でスリランカ料理のレストランをオープンさせたりなど、着実に成果が出ています。
クラウドファンディングも活用
起業活動を大学の単位として認めるのは難しいので、課外活動として取り組んでいます。大学における学びの主体は学生であり、学生がやりたい、勉強したいことを応援していくことが大学と教職員の役割だと考えています。
起業はすべて小さな一歩からスタートするので、APUでは学生たちの一歩を継続的に応援していきます。2019年7月には、11ヵ国・地域出身の30組43名が、APU起業部第2期生として活動をスタートさせました。
起業部の活動資金については、クラウドファンディングで一般の方々から寄付を募りました。「APU起業部応援団」の名前で200万円をターゲットとして募集したところ、最終的にはおよそ380万円が集まりました。
このお金の主な使い道は、起業部の指導のためにAPUに来てくれる卒業生などの交通費や宿泊費ですが、クラウドファンディングを使ったのは、学生たちのモチベーションを高めるという目的もありました。
見ず知らずの人たちに応援され、経済的にも支援されているという自覚は、親や自分のお金で学ぶのとは別のモチベーションを学生たちに与えるのではないでしょうか。