トランプ政権下でも、米中摩擦が冷戦にはつながらない2つの理由

これから世界をリードするのはどこ?
挑発的な言動を繰り返すトランプ大統領と中国政府は、新型コロナ問題を経てますます対立を深めているように思えます。しかし、ライフネット生命創業者の出口治明氏は、歴史的に見て現在の「米中摩擦は米ソ冷戦の二の舞にはならない」と言います。それはなぜでしょうか? 発売1ヵ月で17万部を突破した『還暦からの底力』より、これからの国際社会を読み解きます。

高まる米中の対立

いま、国際関係で注目が集まっているのは、何といってもハイテク・軍事覇権を賭けた米中貿易摩擦です。

新型コロナウイルスをめぐっても対立を深めたように見える両国の関係は、今後の国際社会を考えるうえで欠かせない条件です。

トランプ大統領は挑発的な言動を繰り返している(photo by gettyimages)

名目GDPを見るとアメリカは中国よりも上ですが、購買力平価ベースのGDPでみる
と、中国はすでにアメリカを上回っており、もう既に米中の経済力はほぼ拮抗しているといえます。

経済的にはすでにG2の世界に突入しており、歴史を振り返ってみるとナンバー1にナンバー2が肉薄すると、ナンバー1はナンバー2の頭を叩こうとするのが通例です。米中関係は基本的にこのような構図に則っています。

ただ、かつての米ソの冷戦の二の舞になるかといえば、僕はそうはならないと思います。

その理由は2つあって、一つはアメリカと中国にはたくさんの人の交流があることです。

アメリカとソ連の間にはほとんど人の交流がなく、その象徴がベルリンの壁でした。人の行き来がないということは当然、商売の関係もなく、冷戦時代は自由主義圏と共産主義圏がそれぞれ経済的に独立していました。

結びつく深圳とシリコンバレー

ところが、現在は中国からアメリカに行って学ぶ留学生数だけでもおよそ37万人。国境を超えた人的ネットワークが形成されています。

東京大学の柳川範之教授は、キャッシュレス化が進みスタートアップ企業が集まる中国の深圳や杭州には、アメリカで教育を受け、博士号を取得して中国に帰国した人材が少なくないと指摘し、次のように述べています。

実は深圳とシリコンバレーとの人的・資金的面での結びつきは意外と強く、それはワシントンと北京との間の貿易戦争を見ていたのではなかなか把握できない。やや大げさな言い方をすれば、深圳と北京、シリコンバレーとワシントンとの距離よりも、深圳とシリコンバレーとの距離のほうが、ずっと近いのだ。(柳川範之「国の枠超えつながる人々 政策・経営戦略も再考必要」2018年7月17日 日本経済新聞)

このような動きをみれば、アメリカと中国の結びつきは非常に強いことがわかりますそれを全部断ち切って、どこかにベルリンの壁のようなものをつくることは難しいでしょう。