トランプ政権下でも、米中摩擦が冷戦にはつながらない2つの理由

これから世界をリードするのはどこ?

実は一致している米中の利害

もう一つの理由は、よく考えてみると現在の世界秩序は中国にとってとても都合がいいことです。

第二次世界大戦後の世界秩序は、戦争に勝利した連合国のうち主要5ヵ国が国連の安全保障理事会の常任理事国として拒否権を持つ体制で運営されてきました。

この5大国の順位は実質的には経済力で決まりますから、現在の世界体制は自ずとアメリカと中国のG2ということになります。

2016年、IMFが人民元を特別引出権(SDR)通貨バスケットに採用したのはその象徴です。特別引出権とは加盟国の準備資産を補完する手段としてIMFが創設した国際準備資産で、中国人民元は米ドル、ユーロ、日本円、スターリングポンドの4通貨に続く5番目の採用通貨となりました。

これは国際貿易で中国の役割が拡大し、国際的な人民元の利用や取引が非常に増加したことを反映しています。

一方、いまの中国に世界の警察官の役割は果たせません。空母を保有するようになってはいますがまだ十分機能する水準にはなく、アメリカのように世界のどこにでも展開できる体制にはなっていません。

だからアメリカに世界の警察官の役割を果たしてもらいながら、自分たちはひたすら経済に力を入れるほうが中国にとっては都合がいいのです。

そう考えると中国は新しい世界秩序は求めておらず、アメリカと中国の利害はベーシックなところでは一致していると思います。

米中関係は簡単には破綻しない(photo by gettyimages)

中国側の対応はかなり自制的

実際、最近の米中の動向を見ていると、アメリカはトランプ大統領が先頭に立ってツイッターでどんどん中国を非難する一方、中国側は非難されたら必ず言い返してはいますが、主にその役割を担っているのは外務省の報道官など比較的地位の低い人たちです。

習近平主席や李克強首相はトランプ大統領のようにアメリカを罵ったりはしていません。つまり、中国側の対応はかなり自制的なのです。

もちろん世界のナンバー1とナンバー2が報復的に関税をとことんかけあうと大変な事態になってしまいますが、米ソ冷戦時代のキューバ危機のような一触即発の危機的な状況には陥らないのではないかと思います。

もし中国が自制的な姿勢を失い、両国の指導者がカッカし始めたらかなりまずい事態が生じるかもしれませんが、密接な経済関係を十分考慮したうえで今のところ、中国は売られた喧嘩に冷静に対処しています。

何より、中国の官僚はハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といったアメリカのトップ大学で勉強したエリート揃いで、アメリカの実力をよく知っています。

東条英機のように国力の差を無視し、精神力に頼って戦争を始めるような人はおそらくいないでしょう。