ハイ・ファンタジーとエブリデイ・マジックの融合
この緻密で壮大なファンタジーと、短く面白い説話の両方のDNAを兼ね備えている稀有な存在が廣嶋玲子だ。
廣嶋玲子作品の特徴は、その幅の広さにある。こどもの本総選挙第4位をとった「銭天堂」シリーズは、不思議な駄菓子をモチーフにし、こどもたちを夢中にさせる。
子供が大好きな駄菓子という身近なモチーフで、「面白さ」に引き込まれた子供たちは、その面白さの中で、自然と、欲深さの生む悲しくこっけいな顛末や、思いやりが生む深い人間関係など、勧善懲悪を感じ、生き方を、そして人間社会を学んでいく。


そのような正統なお伽話の系譜を受け継ぎながら、同時に、『赤の王』などの「ナルマーン年代記」シリーズでは、壮大で精緻なファンタジーの世界を描き出す。
「銭天堂」シリーズと違い、水の都ナルマーンは、自分たちの住む町のどこかにひっそりと存在もしていないし、出てくる登場人物たちも、クラスメイトでも、家族でも、職場の仲間でもない、異世界のひとたちだ。
しかしながら、どちらの物語も、豊かで魅力的なキャラクターたちが、同じ人間としての感情を紡ぎだし、想像力の世界に、私たちを連れて行ってくれる。
児童文学でありながら、「大人が読んでも面白い」「親子で読んで語れる」作家といわれるゆえんがそこにある。