観測することが実験結果に影響する――。こうした世界観を提示した「量子力学」とはいったい何なのか、その基本的なところだけでも知りたい。
そこで今回は特別企画。分子科学研究所の大森賢治先生に、量子力学の「基本のキ」から、「大森仮説」の内容まで教えていただきます!
そこで今回は特別企画。分子科学研究所の大森賢治先生に、量子力学の「基本のキ」から、「大森仮説」の内容まで教えていただきます!

そもそも、電子は粒子なのか波なのか
電子は非常に軽いけれども、れっきとした質量を持つ、実在する「粒子」ですね。
ところで、粒子と波は、明確に区別される物理的な性質をそれぞれ持っています。粒子は空間のどこかにある、つまり空間的に「局在」していますが、一方、波はそうとは限らない。ずーっと広がっていても構わないわけですね。したがって波は空間的に「非局在」です。
また粒子同士はぶつかると跳ね返りますが、波は跳ね返らず、2つの波が重なり合って強め合ったり、弱め合ったりします。これを干渉といいます。
粒子と波は、この2つの現象によって明確に区別される物理的な性質である──これが第1点です。

干渉は波に特有の現象です。たとえば池に石ころを2つ投げ込むと、それぞれの石から波紋が広がります。2つの波が干渉して、明るい部分と暗い部分とが交互に現れます。
この縞模様を、光について観測したのが、トマス・ヤング(Thomas Young、1773-1829)というイギリスの物理学者ですね。
1805年ごろ、彼はたいへん革命的な実験を思いつきます。一端に光源を置いておいて、2つのスリットを通して、光がもう一端に置かれたスクリーンに当たるようにしておきます。
もし光が波ならば、スリットがさきほどの石ころのような役割をして波紋が広がり、明るい・暗いの縞模様として観測されるはずだ──これが有名な「ヤングの実験」です。
実際、縞模様が現れたことによって、彼は「光は波である」と結論づけます……まあ、光は電磁波で質量がないので、不思議なことじゃないんですけど。
でも、もし光の代わりに電子ならばどうでしょうか? 電子は光と違ってちゃんとした質量を持つ粒子です。そのような粒子が、ほんとうに波のような振る舞いをするのか?