複雑な貝の形も、簡単に理解できる超お手軽ソフト
博物館や科学館で目を引く展示の1つが、いろいろな貝殻のコレクションだ。見た目に美しいし、大きさ、形、色など、バラエティに富んでいて、生物の多様性というものが実感できる。

貝殻は、貝の外套膜が分泌する液体に含まれる炭酸カルシウムが結晶化したものが主成分である。貝は、貝殻を部分的に溶かしたり、付加したりして貝殻全体を「建築」するのであり、形の違いは、建築方法の違いによる。
ただ、貝も、そこまで賢いわけではないので、工法にたくさんの種類があるわけではなく、基本的には、同じ工法にちょっとだけ条件を変えることで、バラエティのある形を作り出しているのである。言い換えると、多様に見える貝殻の形も、その工法が解ってしまえば「同じような形」なのである。
それを理解していただくのが本稿の目的ではあるが、「百聞は一見に如かず」、解説をする前に、まず、このビデオを見ていただこう。
どうだろうか? 円錐状の形が曲がったりひねったりしていくだけで、多くの貝殻の形にそっくりになり、最後には、全く違う形のように見えていた2枚貝までできてしまう。一見して、それらが、同じ法則の下にできていることが実感できるだろう。
興味を持たれた方は、ビデオを見るだけでなく、自分でプログラムを操作したくなったはず。もちろん、是非そうしてください。下のURLから、ソフトに移動できます。ソフトをダウンロードする必要は無く、ブラウザ上でサクサク、スマホでも動く。操作はスライダーを動かすだけなので、誰でもすぐに楽しめるはずだ。

さて、ある程度ソフトをいじってもらったところで、何故、こんなことができるのか、貝の形を作る基本法則とは何か、そのタネと仕掛けをお教えしよう。
3次元の形ができる仕組みを理解するのは、通常はとても難しいのが、このソフトがあれば、なんの問題もなく、理解できるはず。理解できた先には、生物多様性の真の意味が、ぐっと迫って実感できると思います。
物理的必然=貝の形は円錐縛り
そもそも貝殻とは、貝の体を外敵から防御するためのものであるが、その特徴は「めちゃくちゃ固い」ことだ。おそらく、生物が作る構造の中では最強だろう。人間の皮膚や、ワニの鱗、亀の甲羅、カニの外骨格などと比べても、はるかに硬度が高い。ダントツで最強である。だが、もちろん「固すぎる」ゆえの困った性質もある。体が成長するときに困るのである。
哺乳動物の皮膚は、しなやかで弾力性があり、しかも、伸びる。だから、成長して体が大きくなっても問題ない。しかし、貝殻は変形しないし、膨らませることもできない。貝にできるのは、一部を溶かすか、継ぎ足すか、だけである。
仮に、球状の貝殻があったとしよう。中にこもっていれば、安全そうだ。なんといっても、最強の防御素材である。だが、球状の貝殻では(図の上)、体積を大きくすることができない。
本体が成長して大きくなったら、貝殻を放棄して、新たに作成する必要がある。無駄だし、危険だ。だから、球形の貝殻は現実的ではない。では、円筒形の貝殻ならどうだろう(図の下)。上下が空いているが、なかなかの防御力がありそうだ。
だが、これも、成長時に困ってしまう。開口部があるので、継ぎ足していくことで内部の体積を増やせるが、そうすると、どんどん体が長くなってしまい、紐のような形になってしまう。これでは、内臓などの複雑な臓器の機能を維持するのが難しい。というわけで、円筒形も駄目なのである。

球も円筒も駄目なら、円錐ではどうか。